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物語の裏側で  作者: ティラナ
第一章
17/105

閑話:裏側でヒロインがヒロインを攻略

閑話にする意味があったのか分からないけど、とりあえず閑話で。

 


 レオさんとそのお相手───ミリアリア元・公爵令嬢のお披露目の翌日。

 私、イレースはモヤモヤとした感覚を心に抱きつつ、レオさんのお店に向かっていた。


「ふぁぅ……」


 あくびを押し殺して、滲んできた涙を拭う。

 夕べはおかげさまでよく眠れなかった。


 レオさんに想いを寄せていた人たちのリアクションは人それぞれ。

 あの場にいた他の人たちは二人のことを素直に祝福している人だったり、また泣きながら昼間から女将さんのお店でお酒を飲んでいたりする人がいる。

  ……女将さんのお店はまた儲かりそうだ。



 ミリーさんは確かに綺麗な人だったし、昨日少しだけ言葉を交わした限りでは性格に大きな問題があるようには見えなかった。 ………緊張してうまく話せなかったとか、レオさんに笑われちゃったとか、今はそういうのは気にしなくていいから!


 だけど、申し訳ないけど、彼女はレオさんのお相手には相応しくないと思う。


 レオさんや女将さんが彼女のことを信頼しているからって、それだけで私が彼女のことを信用する理由にはならない。

 罪を着せられて、王太子様に一方的に婚約破棄を言い渡されたのは本当だと思う。 公爵や王族クラスでは聞いたことがなかったけど、妻のことが気に入らなくなったから適当な罪を着せて処刑なんていうのは歴史を辿ってみたらそんなに珍しいことでもない。

 彼女の場合は結婚をしていなかったから婚約破棄と王都追放って形になったんだと思う。


 それだけ聞いたら可哀想だけど、それだけでは彼女の人柄を計り知ることはできない。

 今まではどこか遠くの出来事だと思っていたから同情していた。

 だけど、こんなに近くに本人がいるなら話は別。 どうして王太子様に婚約破棄されたのかは知らないけど、彼女に何らかの原因があることも否定はできないから。


 この目で、どんな人なのか確かめないと。




「こ、こんにちはー!」


 緊張でちょっぴり声が震えそうになるのを堪えて、少し大きな声で挨拶をする。


「い、いらっしゃいませ」


「え、あ、み、ミリーさん……。 こんにちわ……です」


 なんでいきなりミリーさんがいるの!?

 確かに一緒に住んでるっていうのは知ってたけど、入ってすぐに遭遇するかな、ふつう!


 どうしたものかと考えていたら、本棚の整理をしていたらしいレオさんがお店の奥の方からやって来た。

 両手には本を抱えていて重そう。


「お手伝いいたします」


 その姿を見たミリーさんがカウンターから出ながらそう言う。


「ううん、大丈夫だよ。 ありがとう」


「「………ほぅ」」


 思わずため息が零れる。 レオさんの優しい笑顔は今日もかっこいい。


「あの、イレースさん。 何か本をお探しですか?」


 ぼんやりとレオさんを見ていたらミリーさんに声をかけられた。


「い、いえっ。 何かを探しているというわけではないのです。 ただ……その」


「どうかしましたか?」


 言わないと……。

 な、なんて言えばいいんだろう!?


 貴女のことをもっとよく知りたいです。

 ……プロポーズしてどうする。


 いま、お時間ありますか?

 ……何の勧誘なの。

 でも、悪くないかも。


「ミリーさんと、お話をしたいと思いまして。 いま、お時間よろしいですか?」


 身振り手振りを交えながら言う。

 とりあえず、二人で話をしてみよう。 それでわかることもあるかもしれないし。


 そのあと、レオさんから許可も得てミリーさんに続いて2階の部屋に上がった。


 部屋は一つしかなく、驚くべきことにベッドも一つしかなかった。

 二人で一つのベッドって狭くないのかな?


「はい、どうぞ」


 案内された椅子に座って待っていたらミリーさんがお茶を淹れてくれた。


「あ、ありがとうございます」


 そして椅子に座ってある程度落ち着いたからなのか、ふと、ミリーさんの雰囲気が昨日と違うことに気がついた。

 昨日はもっと近寄りがたいって言うか、高貴なお方って感じがしたんだけど今はそうでもない。 むしろ心を許せてしまうような、そんな柔らかさすらある。


「あの、私の顔に何か付いていますか?」


「ち、違います。 その、ミリーさん、昨日お会いしたときと雰囲気が違う気がして」


 失礼になるかな、と思いつつも思っていたことが口から出る。 心が緩んでいるのかもしれない。


「あのときは何と言うか、少々昔の癖が出てしまっていまして。 こちらが素ですので」


「そうなんだ……あ、ちが、そうなんですか」


 ついいつもの口調に戻ってしまって慌てて言い直す。

 ふぅ。 ……危ない危ない。


「イレースさんの話しやすい話し方で構いませんよ?」


「で、でも、公爵様ですし……」


 ミリーさんの春の空のように穏やかな声に、思わず頷いてしまいそうになるのを堪えて首を横に振る。

 よく分からないけど、この人には人を惹きつける魅力のようなものがある。


「いまは庶民ですから。 それから以前も、公爵ではなくて“公爵の娘”ですし」


「い、いいんですか?」


「えぇ、私は構いません。 名前もミリーと呼び捨てで呼んでください」


「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて……。 あ、私のことはイレースで、あと私にも敬語じゃなくていい───よ?」


 口調を変えるタイミングと言うのは思い切りがいるなぁ。

 そう考えつつも、ミリーさ……ミリーにも口調を直すようにお願いする。 こういうのって、片方が許したらもう片方も許さないと変だし。


「わかりました。 ですが、私はこの方が話しやすいのでどうかお気になさらないでください。 それで、何の御用だったんですか?」


 うーん。

 やっぱり貴族育ちだと敬語の方が身体に染みついているのかな。

 まぁ、本人がそう言うなら強要するつもりはないけど。


 そして、ミリーさんの言葉で今日の目的を思い出す。


「あ、そ、そうだった! えっと、ミリー……は、しゅ、趣味とかは?」


 ……口をついて出た質問がそれ?

 自分で自分にツッコミたい。

 ま、まぁ、相手の人柄を探るのに趣味を聞くのはあながち間違いでもない、よね?


「趣味、ですか。 そうですね、裁縫や読書、音楽鑑賞、あとはお料理ですね」


「な、なんか貴族っぽい……」


 音楽鑑賞なんてしたことないよ。

 そもそも、お母さんに歌を聴かせてもらったことはあるけど、楽器なんて年に数回のお祭りのときに楽団の人がやって来てくれるくらいだし。

 でも───


「だけど私も読書は大好き! レオさんに勧められるとついつい読んじゃうんだよね!」


 読書は私の一番の趣味だ。

 思わず声が弾む。

 昔は本なんて好きじゃなかったけど、レオさんを好きになってからは本も大好きになった。


「わかります! レオ様が私のために勧めてくれたと思うとそれだけで嬉しくなってしまいますよね!」


 ポンと両手を合わせながらミリーさんも嬉しそうに言う。

 その様子に私はさらに嬉しくなってミリーさんの合わさった両手を自分の両手で挟む。


「そう! レオさんが私のことを思ってくれたと思うとそれだけで嬉しくなっちゃうんだよね」


「はい! あの、イレースは好きな本はありますか?」


「えっとね……。 あ、恋愛小説なんだけどね面白いのがあってね───。 ミリーは読んだことある?」


「いえ、私はまだないですね。 今度レオ様に聞いて読んでみます!」


「お店になかったら、私が持ってるの貸してあげようか?」


「いいんですか?」


「うん、もちろん!」


「ありがとうございます!」


「えへへ、どういたしまして。 ミリーはどういう本が好きなの?」


「私ですか? 私は───」


 それから時間も忘れてミリーとたくさん語り合った。

 しばらくしたときに夕べの寝不足が祟ったのか、それともはしゃぎすぎたのか、ウトウトとし始めたらミリーさんがベッドまで私を案内してくれた。


 うん。

 ミリーさん、とってもいい人です。

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