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物語の裏側で  作者: ティラナ
第一章
16/105

第15話 お友達

 



 イレースさんには椅子に座っていただき、紅茶の用意をします。

 お砂糖やミルクは本人のお好みで入れていただきたいので、別の容器に入れて持っていきます。

 私はお砂糖もミルクもたっぷり入れるのですが、レオ様はストレートがお好きなのだそうです。 なんでも、『お茶に砂糖はなぁ。 どうにも前から、甘いお茶は苦手なんだよね。 お茶は苦いのが好きなんだ』とのことでした。

 ですので、自分の好みに合わせていただくのが一番いいですよね。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 イレースさんは差し出されたお茶を目で確認して、そのあとに私の顔をチラチラと伺い見てきます。


「あの、私の顔に何か付いていますか?」


「ち、違います。 その、ミリーさん、昨日お会いしたときと雰囲気が違う気がして」


 両手を前に出してパタパタと動かすイレースさん。

 やはり他の方から見ても、あのときの私の雰囲気は普段のものとは違っていたのですね。


「あのときは何と言うか、少々昔の癖が出てしまっていまして。 こちらが素ですので」


「そうなんだ……あ、ちが、そうなんですか」


「イレースさんの話しやすい話し方で構いませんよ?」


「で、でも、公爵様ですし……」


「いまは庶民ですから。 それから以前も、公爵ではなくて“公爵の娘”です」


「い、いいんですか?」


「えぇ、私は構いません。 名前もミリーと呼び捨てで呼んでください」


「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて……。 あ、私のことはイレースで、あと私にも敬語じゃなくていい───よ?」


「わかりました。 ですが、私はこの方が話しやすいのでどうかお気になさらないでください。 それで、何の御用だったんですか?」


「あ、そ、そうだった! えっと、ミリー……は、しゅ、趣味とかは?」


「趣味、ですか。 そうですね、裁縫や読書、音楽鑑賞、あとはお料理ですね」


 貴族としてどれもありきたりなものですが、淑女の嗜みとして身に付けてきたものです。

 お料理は今のようにお食事を作るのではなく、お菓子を作るだけでした。 中には後片付けをしなかったり、ほとんどを専属の料理人に任せて自分が作ったということにする人もいるそうです。 けれど、しっかりと行っていたのが今になって本当に役に立ちました。


「な、なんか貴族っぽい……。 だけど私も読書は大好き! レオさんに勧められるとついつい読んじゃうんだよね!」


「わかります! レオ様が私のために勧めてくれたと思うとそれだけで嬉しくなってしまいますよね!」


 イレースさんと意気投合して自然と言葉尻が上がります。

 動けるようになるまでほんの数日でしたが、その間にレオ様にお勧めされた本を読ませていただきました。 その本がまたとても面白くて。 私の好みを既に熟知しているような選択でした。

 さすがはレオ様です。

 それにレオ様が私のために考えてくれたと思うと、本を抱きしめて悶えたくなります。 貴族間では想い人に詩集を送るというのがありましたが、それを受け取った人と同じ気持ちなのかもしれません。


「そう! レオさんが私のことを思ってくれたと思うとそれだけで───」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 ミリーとイレースちゃんが2階に上がってから2時間近く経った。

 時刻はそろそろ12時、昼飯の時間だ。 しかし、二人とも全く降りてこない。

『ゆっくり話しておいで』とか『俺は上には行かないから』とか言ってしまった手前、昼だからといって呼びに行っていいものなのかどうか。

 ミリーのことだから思春期の女子高生みたいに『ちょっと! 勝手に入ってこないでって言ってたでしょ!? 何考えてんのよ変態!』みたいなことは言わないと思うが (これはこれでツンデレっぽくていいとか思ってない! ) 、変に気を使わせてしまいそうでそれはそれで申し訳ない。


 ここで究極の2択だ。


 ▷1、昼だからと呼びに行く。

  2、降りてくるまでここで待機。


 我慢できないほどに腹が減っているわけでもないから昼飯が遅くなるのは別に構わない。

 だけど、この店は前世のように時間ぴったりに回している。 9時に開店、12時から1時半まで休憩、そして5時に閉店だ。

 つまりこのタイミングで昼飯を食べないと次は夕飯まで我慢しなければならないのだ。 流石にそれは辛い。 ミリーを一人で店に立たせたくもないから、交代で休憩というのもなしだ。


 ……仕方がない。 ミリーには悪いが声をかけさせてもらうか。

 ふぅ、と小さくため息を吐いてからカウンターを出る。 既にお客さんはイレースちゃん以外は家に帰っているから、一度扉を閉めて鍵をかけてから2階へと続く階段を上る。


「ミリー。 そろそろお昼だけど、部屋に入っても大丈夫? 」


 階段の中ほどで少し大きな声で尋ねる。

 なぜわざわざ階段の中ほどなのかと言うと、部屋にはドアもあるが閉まっていなかったら悪いし、もし閉まっていたら下からだと聞こえないような気がしたからだ。


「え、あっ、もうそんな時間ですか。 すみません、レオ様」


「入っても大丈夫?」


「はい、それはもう。 大丈夫です。 ですが、お静かにお願いします」


「………? わかった。 それじゃあ、失礼して────」


 言葉の意味を理解しきれずに頭を捻る。 ここは一軒家だからよほどの大声を出さない限りお隣さんへの迷惑とかはないと思うのだが。

 部屋のドアは閉められていたから、ドアノブを捻りながら部屋に入るとその理由はすぐに知ることができた。


「よく寝てるね」


「はい。 たくさん話したら疲れてしまったようで。 初めは椅子に座ったまま寝てしまったので、どうにかここまで移動していただきました」


 俺の目に飛び込んできたのは、ベッドに腰掛けたミリーとベッドに横になっているイレースちゃんだった。

 ミリーの腰に抱きつくように手を回して、静かに寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。

 ミリーは落ち着き始めて自分らしさを取り戻してきたのか、最近は落ち着いた雰囲気を漂わせ始めている。 そこにイレースちゃんの見た目の幼さも加わり、仲のいい姉妹みたいだ。 見ているこっちも癒される。


 二人の様子から察するに打ち解けられたらしい。


「仲良くなれたみたいだね」


「はい。 好きなものの話で盛り上がることができました」


「それは何よりだよ。 よかったね」


「はいっ」


 イレースちゃんを起こさない程度の声で、ミリーが元気良く答えた。

 もちろん飛び切りの笑顔付きで。

 出会ったときよりも大人っぽい笑顔は、破壊力が増している気がする。



読者の皆様方のおかげで、ブクマ4000件突破しました!

ありがとうございます!


なぜその中途半端な数で? と思うかもしれませんが、最近ほとんど増えていなかったのですごく喜んでます。


実際に書いてみると、他の作者様方の凄さを実感しますね。

まだまだ未熟な作者ですが、今後ともよろしくお願いします。


あ、作品はまだまだ続きます。




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