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物語の裏側で  作者: ティラナ
第一章
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第13話 お披露目パーティー

 



「ささ、せっかくのパーティーなんだ。 みんな楽しく語り合ってちょうだい」


 私たちの隣に立っていた女将さんの声が会場に響きます。


 周囲の方々は会話をしながら、チラチラと私たちのことを見ていますが近寄ってくる人はいらっしゃらないようです。 それぞれがそれぞれに動揺や困惑、中には面白いものを見たような表情をしている方もいらっしゃいますね。


 私たちはいまは、少しだけオシャレをしています。 レオ様は自前のフォーマルな服、いつもの服と違ってピッシリと引き締まっていてこれはこれでカッコいいです。

 そして私は女将さんに貸してもらった水色のドレスを着ています。 娘さんが着ていたものらしく、貴族時代のものと比べると装飾も少ないシンプルなデザインですが、女将さんの優しさが詰まっている感じがします。


 会場にはちょっとした料理が並べられています。 どれも女将さんの旦那さんが厨房で作ってくださったものです。

 夕ご飯は軽く食べて来ましたが、後で時間があったら少しだけ食べてみたいです。 お料理のレパートリーも増やしてみたいですし。


「ミリー? もしかして、緊張してる?」


「……? いえ、大丈夫です。 パーティーには慣れていますから」


 むしろ今までにないくらいに落ち着いています。

 レオ様と結婚を見据えてお付き合いしていくというのを公に発表、更に私自身のことを公表するわけですから本当ならばもっと緊張していてもいいくらいなのですが、レオ様が隣にいて下さるだけでとても安心できます。

 レオ様といるとドキドキしますが、それと同時に安らぎも与えてくださいます。


「そう? ならいいけど……。 なんだかいつもと雰囲気が違ったから」


 そう言われてみると、一つだけ思い当たる節がありました。

 私が今まで慣れ親しんで来たのは貴族のパーティー。 つまりはそれぞれの家の力関係や友好関係、その他様々な政治的な思惑が交錯する場でした。

 そこでうまく振る舞うには自身の本音を隠すというのが必須です。 周囲に気を配り、相手の心の内を探る場なのです。

 もしかしたら自然とそうしてしまっていたのかもしれません。


「貴族時代の癖が抜けていないのかもしれません」


 確かに言われてみれば、自分自身の声が淡々としたものに聞こえてきました。 感情が篭っていないというわけではないのですが、なんというか少し固い余所余所しい話し方のような気がします。

 私が今まで培って来た常識はここでは通用しないのです。 郷に入っては郷に従え、と言うようにここではここのルールに従うのが一番ですね。 周りの方をよく見て自分の行動に取り入れましょう。


「そっか。 それだったらいいんだ。 ミリーの振る舞いやすいように振る舞ってくれればね」


「ありがとうございます。 それでは、そうさせていただきます」


「さ、ミリー、行こうか」


「はい」


 レオ様にエスコートしてもらいながら歩きます。

 こういったことには慣れていないと思うのですが、レオ様は堂々としていて頼もしいです。



「あの、レ、レオさんっ、ミリーさん! お、おめでとうございますっ!」


「うん。 ありがとう、イレースちゃん」


「ありがとうございます。 お初にお目にかかります、私、ミリーと申します。 お会いできて光栄です」


 会場の中ほどにまで進むと、一人の女の人が祝辞の言葉をかけてくださいました。

 おそらくレオ様のお知り合いの方なのでしょう。 ならば失礼のないようにしなければいけません。


「え、あっ、いえ、こちらこそ。 い、イレース、です。 よ、よろしくお願いしますです」


「えぇ、今後ともよろしくお願いいたします」


 イレースさんと頭を下げあって挨拶をします。

 今はまだ警戒されているようですが……何でしょう、この方とは仲良くなれそうな気がします。 私と何処か似たような雰囲気です。


「イレースさんはレオ様のお店の常連様なのですか?」


「あ、は、はい。 よくお世話になっていましたでございますです、はい」


 なるほど。

 言葉尻も少々異なるのですね。 難しいです。


「そうなのですますか。 それではそちらの方でも、今後ともよろしくお願いいたしますですね」


「よ、よろしくお願いされます」


 すると、私たちのそばでその様子を見守っていたレオ様が小さく呟きました。


「……なんか奇妙な光景だな」


「えっ!?」

「………?」


 イレースさんは声をあげて、レオ様の言葉に私は無言で首を傾げます。 どこかおかしかったでしょうか?


「いや、むしろそんな不思議そうな表情をされる方が不思議だわ。 イレースは緊張しすぎだし、ミリーはそれをマネしなくていいよ?」


「ですがこれが普通の話し方なのではないのですでしょうか?」


 語尾の部分のトーンが、一度下がってもう一度上がる話し方で面白いです。 まるでボールが跳ねているみたいです。


「……いや、もう何を言ってるかわかんなくなってきたわ。 ミリーは今まで通りに話せばいいんだよ。 あと、それは間違ってるから」


「……そうなのですか?」


 間違っていると言われてしまったので話し方を元に戻します。 あれはあれで面白かったのですが。


「イレースは緊張してて、ちょっと語尾がおかしくなってるだけだよ。 イレースも、そんなにミリーのこと警戒しないで。 ミリーはとってもいい子だから」


 私に説明をした後に、イレースさんにも話しかけます。 やはり警戒されていたのですね。

 先ほど自ら元・公爵令嬢だと言ったばかりなので仕方がないことだと思いますが。

 あと、レオ様に褒めていただけて嬉しくて、頬が緩んでしまいそうです。


「わ、わかりました」


「うん。 それじゃあ他の人にも挨拶しに行くから、またね」


「あ、は、はい、また」


「失礼いたします」


 イレースさんにお辞儀をしてからレオ様の後を追います。

 この会場、女の人が多いのは何故なのでしょう?

 女将さんの持つ繋がりだとやはり同じ女性の方が集めやすかったのでしょうか。

 いえ、決して男性に囲まれたかったとかそういう類のものではなく。 むしろ私としてはレオ様だけいらっしゃっていただければ、他の男性はいらしてもいらっしゃらなくても構わないのですが。


 レオ様の後に続いて会場の人たちに挨拶をし、全員と挨拶をし終える頃には夜もすっかりと更けてしまい、そのままこの日はお開きとなりました。

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