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物語の裏側で  作者: ティラナ
第一章
13/105

第12話 少女の目から

 



「今晩、ウチの店でレオちゃんと恋人のお披露目パーティーをするんだけど、もちろん───」


「行きます!」


 女将さんの言葉の途中だけど、身を乗り出して答える。

 朝早くに女将さんがウチに来て一体なんのようだろうと思っていたけど、レオさん関連の話だったのか!

 でも、お披露目パーティーを開いちゃうなんて流石はレオさんだ!


 レオさんは同年代の女の子たちの中では憧れの的。 『王太子様とレオさん、どっちがタイプ?』みたいな会話は鉄板中の鉄板で、私は断然レオさん派。

 王太子様って言ってもあったことはないから、みんな物語の中の王子様を重ねている。 要するに空想の中の恋人、っていうやつ。 本物の王太子さまは、貼り紙の件から考えてもかなり自分勝手みたいだし。

 頭の中の理想の恋っていうのも悪くはないと思うけど、やっぱり実際に会って話せる人の方が私はいい。


 レオさんはカッコいいし、頭もいいし、何より優しい。

 足の悪いおじちゃんおばあちゃんたちのために本の配達をしてくれたり、子供たちのために勉強を教えてあげたりしているのだ。

 それに笑顔が温かくて……。


「イレースちゃん? ちゃんと聞いてる?」


 ぽわーんとレオさんの笑顔を思い出していたら女将さんの話を聞き流してしまったみたい。


「あ、ごめんなさい。 聞いてませんでした」


「まったく、レオちゃんのことを考えるのは勝手だけど、人の話はちゃんと聞いてくれないと困るよ?」


「気を付けます……」


「それで、レオちゃんのお披露目パーティーなんだけど───」


 あ、そうだ。

 レオさんの話だった。

 レオさん、そういう仲の人ができたって言ってたもんね。

 それも王都から来た人。


 あぁ〜。

 ショック大きいなぁ。

 初恋は叶わないって、レオさんのお店で買った小説に書いてあったけど本当なんだね。


「はぁぁ〜……」


「イレースちゃん?」


「き、聞いてますよ!?」


「素直に聞き直した方が身のためだと思うよ? 」


「…………もう一度お願いします」


「まったく……。 まぁ、好きだった人の恋人のお披露目いうんだから無理もないかもしれないけど、今晩までにはなんとかしときなさいよ? 今日のは本当に少ししか人を呼ばないんだから」


「レオさんと親しかった人だけってことですか? 」


「まぁ、そう言っても過言ではないかね。 あんたはアホだけどバカじゃないからね。 それにレオちゃんのお嫁さんに報復しようとかそんなことは考えないからね 」


「……いや、確かに報復しないですけど。 アホってひどくないです?」


「そんなに悪い意味でもないよ。 レオちゃんに会いたいからって、本を読みまくるヤツはそうそういない。 しかもおかげでかなりの知識がついたそうじゃないか」


「レオさんに教えてもらったりしましたから」


 そう。

 レオさんに会いたい一心で私はレオさんのお店に通って、カウンターに座って本を読みまくったのだ。 そして、難しいところがあると積極的にレオさんに聞いていたらいつの間にかすごくたくさんのことを覚えられた。 自分でもびっくり。

 そして、たまにレオさんオススメの本を買って帰って、本の内容について二人で話したり。


「あぁ、楽しいひと時だった……」


「どうしてそう繋がったかはわからないけど……。 レオちゃんは恋人ができたからって仕事を疎かにするタイプじゃないだろうから、新しい恋が見つかるまでは今まで通りに通い続ければいいんじゃないかい? それに、もっと知識をつければ王都でいい人を見つけられるかもしれないよ?」


「……そうですね。 新しい出会いはともかく、結婚するからってレオさんを見られなくなるわけじゃないですもんね」


 そうだよ。

 レオさんがもし結婚しても会えなくなるわけじゃないんだもん。 他の人のものになっちゃうのは辛いけど、少なくとも本屋さんとしてのレオさんはお客さんのものなんだし。 これからも通い続けよう。


 だけどその前に、レオさんのお嫁さんになる人がどんな人か、しっかりと確認しないと。

 もしもレオさんに相応しくないような人だったら私がレオさんをもらっちゃおう。 強奪愛っていうのもありだと思うんだ。


「そういえば、女将さんはその女の人のこと知ってるんですよね?」


 話の流れから察するに女将さんはその人と会ったことがあるみたいだし、情報は集めとかないと。


「えぇ、知ってるわよ。 昨日会ったし、それに昔、娘が世話になったらしい人だったからねぇ」


「えっ、そうなんですか!? たしか今は王都の宿屋で働いているんですよね。 王都から来た人ならそういう繋がりがあっても不思議じゃないのかなぁ 」


 どうしてこの街に来たのかわからないけど、宿屋だったら人脈も広いしその女の人と知り合いでもおかしくはないのかな。


「王都って広いから、そうそうこういうことってないと思うけどね。 まぁ、そのときの恩があるから私はお嫁さんの味方だけどね」


「え〜〜! 女将さん、そっち側なんですか〜!?」


「うふふ、ごめんなさいね〜」


 な、なんてこったい。

 女将さんがそっち側なんて……。

 この勝負、既に決まったようなもんなんじゃ。


 う、ううん!

 まだ……まだ、決まってないよ!






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 いつもよりも少しだけいい格好をして私は女将さんのお店のドアを開ける。

 今日は酒場もいつもよりも早く閉め、宿泊のお客さんも断ったらしい。 さっすがは女将さん。

 ……昨日は詩集を高値で売ってたもんね。

 あと、愚痴をこぼしに来た人がたくさんいてすごいことになっていた。 お店のお酒が全部売り切れたって本当なのかな?

  もしかしたら、プラスマイナスでいうと女将さんにとってはまだプラスかもしれない。


「あ、イレース〜」

「イレースちゃん」


「あ、やっほーっ。 こんばんわーっ」


 お店の中には見知った顔があった。 レオさんのお店の常連仲間だ。 手を振って挨拶をしながらお店の中に入る。

 周りを見回してみるけどレオさんたちはまだこの場には来ていないみたい。


 そういえば女将さんが、今日見たことは無闇矢鱈に広げちゃダメって言ってたけど、どうしてだろう? まぁ、その後に『レオちゃんに嫌われたくなかったらね?』と言う言葉が付け足されたから絶対に他の人には言わないけど。


 彼女たちと談笑、と呼ぶにはみんな気もそぞろで私も何を話したかはよく覚えていない。

 すると、そう長くないうちにお店の一部がざわめき始めた。 レオさんが入って来たみたいだ。 声のする方から察するにお店の外からじゃなくて中の方からやって来たらしい。


 声のした方に目を向けると、レオさんとレオさんに手を引かれて歩く女の人。 私よりも少し上、レオさんと同じくらいかな……?

 わずかな風にも揺れる艶やかでサラサラとした金色の髪は小麦畑のように美しく、その瞳は私が今までに王都で見たことのあるどんな宝石よりも透き通っている。 ほっそりと痩せた四肢は少し不健康そうではあるものの、それでも醜さや見苦しさなどはなく、むしろ儚げな印象を受ける。


「……綺麗な人」


 誰かが小さくため息交じりにそんな言葉を口にした。

 その声はもしかしたら私のものだったのかもしれない。


 悔しいけど、私なんかよりも何倍も綺麗。 レオさんと並んで立っていても決して劣らない。 お似合いの二人だった。


 だけど……、あの人……。


「貼り紙の人に似てる」


 今度のは間違いなく自分の口から零れ出た。

 そう。 レオさんの隣に立つ彼女はルーデイン公爵令嬢にとてもよく似ていた。

 まったく化粧っ気はないけど、姿絵の公爵令嬢も薄くしかお化粧をしていなかったからお化粧で似せているというわけではなさそう。


 みんなの視線が女の人に釘付けになっているとき、レオさんが口を開いた。


「皆さん、今日はこんな遅い時間にわざわざ集まっていただきありがとうございます。 俺───レオナルドはこの度、ここにいるミリーと結婚を見据えてお付き合いをすることになりました」


 レオさんが途中で言葉を切り、それを隣にいるミリーさんと紹介された女の人が引き継いだ。


「初めまして、ミリーと申します。 もうお察しのことかと存じますが、縁は切れていますが私は公爵家の娘でした。 信じてもらえないかもしれませんが、私は無実の罪で罰せられて、たまたま行き着いたこの街でレオ様に助けていただきました。 これから先、全てをレオ様に捧げて生きていくつもりです」


 ミリーさんの声は堂々としていて、大勢の前で話すことに慣れているような様子だった。 その様子が彼女が本物のミリアリア公爵令嬢なんだと証明しているような気がした。

 あ、そうか。 だからレオさんは昨日あんな質問をしたんだ。

 ミリアリア公爵令嬢のことをどう思っているのか、と。



「ささ、今日はせっかくのパーティーなんだ。 みんな楽しく語り合ってちょうだい」


 シーンと静まり返る室内に女将さんの声が響いた。













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