第10話 新ヒロイン?
10万PV達成!
こんなに早くここまで来れるとは。
すべて読者の皆様方のおかげです!
今後とも『物語の裏側で』をよろしくお願いします!
「こ、こんにちは〜っ」
「あ、いらっしゃい」
カウンターに座ってボンヤリとしていたら、またお客さんがやって来た。 今度はよく本を買ってくれる女の子。
女の子とは言っても年齢は俺よりも一つ二つ下くらいの子だ。 前世ほどに安くはないにも関わらず、よく本を買ってくれる常連さんである。
しかし背が低く童顔でもあるため、外見だけ見たらエシルよりも少し年上かなというくらいの印象だ。 茶色の髪を頭の後ろで二つにまとめた髪型も彼女を幼く見せるのに一役買っているのかもしれない。
「イレースちゃん、今日はどんな本をお探しですか?」
「え、えっと、あの……」
「………?」
いつもなら楽しそうにオススメの本とか最近入荷した本とかを聞いてくれるんだけど、今日はモジモジとしていて様子が違う。表情もどこか強張っていて、いつもの太陽のような明るさがない。
………まさか、R18な本じゃないですよね?
ないことはないですけど、流石に気まずいですよ?
とは、いくらなんでも聞けないよなぁ。違ったらセクハラレベルだし。
「あのっ! ご、ごご、ご結婚なさったって本当ですか!?」
「え? あぁ、宿屋の女将さんに聞いたの?」
うわさ話って広がるの早いね。
もう他の人の耳に入っているのか。
それで、本を買うついでに聞いてみたみたいな感じかな。 確かに、こういう話って聞き辛いわな。
「ほ、ほんとう……なんですか……」
「本当っていうか、何ていうか……。 結婚はしてないけど、そういう仲の人はいるね」
一応、間違っているところは訂正しておく。
ちなみにさっきも言ったけど、この国に戸籍は存在しないから結婚と言っても役所に届け出をしたりはしない。
両家の親戚に挨拶回りをするくらいで、それを行うことで結婚をしたということになる。
これが貴族だったりしたら大々的にパーティーを開いたりするのだろうけど、庶民だったらそんなものだ。
俺たちの場合は、ミリーの方は家族と縁が切れているから俺の生まれた村に行って終わりかな。
前世の新婚旅行みたいなものは期待してはいけない。 そもそも、南国のリゾートなどはこの国にはないし。
「い、いるんですか……。 そっ、そうですか」
「あ、ところでさ。 昨日、騎士の人が来てお店に貼り紙みたいなのを置いていかなかった? 」
話がひと段落ついたので今度は忘れないうちに聞いておく。
彼女の家は服などを扱う少し高級なブティックで、俺も数着王都の取引先と会うときのために彼女のご両親の店で買わせてもらった。 感覚としてはスーツみたいな感じだね。
「そうなんだ。 そうだよね。 はぁ……。 でも、まさか王都の人だなんて……。 街の中で睨み合いしてる間に……。 はぁ……」
「……大丈夫? 」
イレースちゃんは俺の質問が聞こえていないどころか、もう既にどこを見ているのかすら分からない状態だった。
顔色は悪くなさそうだけど、今日はなんだか様子も変だし、疲れが溜まっているのだろうか?
「えっ、あっ。 だ、大丈夫! です」
「そう? ならいいけど、疲れてるなら早く寝た方がいいよ? 寝不足は肌にも良くないらしいから」
「は、はい……。 そうします。 と、ところで、何のお話でしたっけ?」
「あ、うん。 昨日、騎士の人から貼り紙もらった?」
「貼り紙……。 あ、はいっ。 もらいました。 公爵令嬢様が、っていうやつですよね」
「そう、それ。 あれってどう思う?」
「どう、というと?」
「いや。 よくよく考えてみると、変な話じゃない? いくら公爵家の令嬢って言っても、俺たちと同じくらいの年の人が国家反逆罪って。 しかも、王都から離れたこの街にまで姿絵付きであんな貼り紙が届くなんて、変じゃないかなぁって俺は思うんだけど」
あまり俺の意見を言うと彼女がそれに流されてしまう心配もある。 だけど、向こうの意見を聞くときには、こちらの意見や立場を明確にしておくべきだろうと判断したのだ。
それにこの子は良くうちに来て本を読んでいるし、俺が勉強を教えているのを聞いていたりする。 だから、この国の貴族のことはそれなりに知っていたりする。 そんなわけで、同じ年代の中ではこういった話をするにはベストな人だろう。
「あ、なるほど、そういうことですか。 あ、あの……これはあくまでも私と女将さんの推測なんですけど───」
俺の言葉に頷いたあと、警戒するように周りを見回りしてから声を潜めて続けた。
しかもどうやら、さっきの女将さんの意見でもあるらしい。 もしかして、そのために酒場に行って、たまたま俺の話を聞いたのだろうか。
「───確か、追放されたご令嬢って王太子様の婚約者だったと思うんです。 だけど、婚約者は他にいるということになっていましたから、新しい婚約者と王太子様が恋に落ちて、それで邪魔になったから適当な罪を着せて婚約を解消させたのではないかと」
「………」
うん、たぶんあってる。
あれだね。 街の人たちだって、ただ上の命令に従うだけしかできないと思ったら大間違いってやつだね。
「どっ、どうですか?」
俺が沈黙してしまって不安になったのか、恐る恐るといった様子で問いかけて来た。
余談だけど、この子も敬語がデフォルトだではあるけど、ミリーのがお上品でお嬢様っぽいのに対して、イレースちゃんのは仲のいい先輩に対するときのものっぽい。
「うん。 俺も同じ意見だよ。 と言うか、ほとんど同じでびっくりした」
「そ、そうですか? た、だけど、酒場にいた皆さんは、おんなじ感じの意見でしたよ?」
「え、そうなの?」
それは意外だ。
今朝だって貼り紙が貼られているのはこの目で見ているから、その情報を鵜呑みにしているのかと思ったのだが。
「この街の皆さんがそう思っているかは分かりませんけど。 基本的には、私みたいな意見の人か、興味がないからとりあえず貼り紙を貼ったという人に分かれると思います。 ウチなんかはまだ貼っていませんし」
そういうもんだろうか。
まぁ、ある程度の興味があって国の情勢に明るければ王太子の婚約者の名前くらい知っているし、逆に興味がなければ上の方の貴族がなんかやらかして追放されても別に知ったことではないということだろうか?
「なるほど……。 ありがとう、参考になったよ。 お礼って言っちゃなんだけど、今度本買うときはサービスさせてもらうね」
「あ、ありがとうございますっ」
「いやいや、こちらこそありがとね」
「い、いえっ、こちらこそです」
ペコペコとお礼合戦になりかけながらも店を出る彼女を見送った。 そういえば、彼女は何のためにうちに来たんだろう? 俺の恋人の話だけだったんだろうか………?
「あの、レオ様。 そろそろ一度お店を閉められては?」
2階に続く階段の方から、ミリーが姿を見せずに声をかけてくれる。
チラリと時計を見ると短針と長針が一番上で交わろうかというところだった。
「うん、そうだね。 ありがとう。 店を閉めてから行くから先に戻ってていいよ」
「いえ、ここでお待ちしています。 だって、“未来のお嫁さん”ですから」
「おぅ」
さっき自分で言った言葉とはいえ、ミリーが言うとレベルが違う。
声も弾んでいるし、きっとその表情もすごい笑顔なんだろう。 見ていたら理性が危なかったかもしれない。
……顔が見れなくて良かったような、残念なような。
もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの方のご指摘を受け、内容の一部を変更いたしました。
具体的には、第1話と第3話の部分を差し替えさせていただきました。
大まかな内容としては、
・店はお爺さんのものを受け継いだ。
・印刷技術は中世ヨーロッパと比べたら驚くほどに高い。
・街に読み書きや算術を教える寺子屋を設置。
の3点です。
未熟者ですので、これからも不自然な点が数多く存在すると思います。
その際はご指摘いただけたら幸いです。