アフターストーリー.3 もう一人の主人公?
〜モニカ視点〜
瞬間、私の脳裏に電撃がほとばしった。
次々と私の頭の中に流れ込んでくる、知識と記憶。
……なーんて、カッコつけてる場合じゃないよね。
学校の始業式に向かおうと思って廊下を歩いていたら、どこかで見たことがあるような金髪碧眼の美少女に遭遇。 その瞬間に頭ん中にいろんなことが浮かんできて、パンクしてぶっ倒れちゃったんだよね〜。
あはは、笑えない。
私が思い出したのはここがゲームの世界だってこと。
たしか、『君が僕のお姫様 〜鏡の国の恋物語〜』ってタイトルだったかな。 通称『君姫2』。
よくある設定だけど、庶民出身の主人公フリーダが貴族だらけの学園に特待生として入学してきていろんなイケメンと恋に落ちるお話だ。
そして、これもよくあるお話なんだけど、私ことモニカ・ライプリッツは『君姫2』の中だといわゆる当て馬───悪役令嬢だ。 王太子の婚約者として出てきて、主人公の恋路をことごとく邪魔する『君姫1』とは違った正統派な悪役だ。
………あれ?
そういえば私、王太子と婚約してない。
…………うん?
まさか、私の中身が残念すぎて王太子には相応しくない的な?
……………自分で言うのも悲しいけど、ありそうだ。
そりゃそうだよね〜。 貯金とダイエットと昼寝が趣味の王妃様とか私だって嫌だもん。
あ、ということは私はすでに天性の才能で破滅を回避していたわけだ!
私すごい!
私天才!
よし、そうとわかったら早速目を覚ましてしまおう。
「……あ、目、覚めました?」
「おぅ……」
目を開けると、そこにはフリーダがいた。
いや、だって目を開けてすぐにヒロインがいると思わないでしょ?
「大丈夫ですか? あ、私、フリーダって言います。 貴女、いきなり廊下で倒れられたんですよ? 医務室の先生は貧血だろうっておっしゃっていましたけど。 てんかんとかだったらって思って心配で……」
「え、えぇ、大丈夫よ。 私はモニカよ。 ただの貧血だと思うから心配しないで」
それはともかく、めっちゃ難しい単語が聞こえてきたんですけど?
「そうですか。 あ、でも、私、一応先生を呼んできますね!」
「あ、ねぇ! 貴方、さっきの話、どこで聞いたの?」
パッと私の側から離れて、医務室から出て行こうとするフリーダを慌てて止める。
私の記憶が確かなら、この世界にはてんかんという病気の概念はなかったはずだ。 せいぜい気絶の一種くらいにしか考えられていなかったと思う。
……どうでもいいけど、フリーダ足速くない?
「さっきの?」
私の言葉が何を指していたのか本当にわからないようで、扉に手をかけたままキョトンと首を捻っている。
おおう、これがヒロインの力ですか。 普通に可愛いです。
「てんかん、とか」
「え、あぁ。 私の父が医者みたいなことにも手を出してて……医学書とかを書いているんです。 あ、ちなみにてんかんっていうのは────」
私の質問がてんかんの意味が分からないからだと思ったのか、ヒロインちゃんはツラツラとてんかんの症状を説明してくれる。
「……そ、そうだったの。 素晴らしいお父様ね」
ヒロインのお父さんってお医者さんだったのか。 あ、でもみたいなことって言うことは、お医者さんじゃないのか。
この世界で医者って言ったら、そのレベルにもよるけど下手な貴族よりもお金持ってるよね……? もしかして、ヒロインってお金持ちのお嬢様?
しかも、この世界では間違いなく最高峰のレベルの医学書を書いてるとか。
え? 何、もしかしてヒロインってもともとが王族のお抱え医師の娘だったりしたの?
うぅ、せっかくのシンデレラストーリーが……。
「まぁ、はい。 もう少し時と場所を弁えてくれれば、本当に文句のつけどころのない父なんですけどね」
「そ、そうだったの」
な、なんか言い知れぬ苦労を感じられるんですが。
ヒロインの身に一体何が……。
「あっ! とにかく私、先生を呼んできますね!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うん、やはりなんともないですね。 ですが、今日1日は安静にしていてください。 フリーダさんが咄嗟に支えてくれたから頭を打たなかったのが幸いでしたね」
お医者様に見てもらったけど、やっぱりなんともなかったみたい。
まぁ、そうだよね。 前世の知識が蘇ったショックで倒れただけだし。
そんなことよりも───
「フリーダさんが支えてくださったの?」
この華奢な細っこい腕で?
私のこの身体を?
自慢じゃないけど、私って意外と着痩せするタイプだよ?
最近ダイエットをサボってたからお腹に鏡餅が発生しそうな感じなんだよ?
「あ、はい。 剣術を習っていたので」
「剣術を?」
「父に教え込まれたんです。 周りが全て敵になったときにも、自分の身くらいは自分で守れないといけないって。 男の騎士に組み伏せられても逆転できるようになりなさいって言われました」
「………そうだったの」
え、何この子?
本当にヒロイン?
いや、私がこんなんだから全部がゲームの通りだとは思わないけど、それはヒロインとしてどうなのよ。 騎士を組み伏せられた状態から逆転できるとか、攻略対象たちも怖がって近付いて来ないよ?
………はっ!?
まさか、この子も私と同じくモテそうでモテない系女子なのか!?
自慢じゃないけど、私そうだよ?
高嶺の花だとか、話しかけたら無礼者って言われそう、とか言われて男子は誰も話しかけてくれないんだよ。 全く、中身はこんなにフレンドリーだというのに。
「あ、でも、私そんな筋骨隆々な感じじゃないですよ!? 力がなくてもやり方はいくらでもありますから」
「…………そうね」
『やり方』が『殺り方』に聞こえたのは気のせいでしょうか?
うん。
この子、絶対にモテない組だ。
よしよし、仲良くなれそうじゃないか。
いやぁ、ヒロインが逆ハーとか築いてたら面倒臭そうだもんね。
なーんて、ことを考えてた時代が私にもありました。
ガラッと勢いよく医務室の扉が開けられると、一人の男子生徒が入ってきました。
「お姉さま! ご無事ですか!?」
金髪にアメジストの瞳。
男子としてはかなり小柄な少年。
うんうん、この子もゲームで見たことあるぞ〜。
「お体は大丈夫なのですか!?」
「……? 私は大丈夫だよ、ヴァル」
おかしいな。
この子───ドランヴァルトはゲーム開始時点だとフリーダに対して無関心だったはずなんだけどなぁ。
間違っても、こんなに血相を変えてフリーダの身を案じることはなかったと思うんだよ。
てか、倒れたの私だし。
ベッドに寝てるのどう見ても私じゃん。
構って欲しいわけじゃないけど、せめて静かにしてて欲しい。
「ですが、廊下で倒れてお姉さまが医務室に運ばれたって……」
「あぁ、このモニカさんが倒れて、私が医務室に運んだんだよ」
「ほっ、そうだったんですか。 お姉さまにお怪我がなくてよかったです。 ……もしもお姉さまに何かあったら、僕は気がおかしくなりそうですよ」
あ、私の方をチラッと見たけど興味がなさそうにスッと視線を戻された。 そうだよね、ドランヴァルトって興味がないものにはとことん無関心だもんね。
いいよ、別に。
ドランヴァルトのファンじゃないし。
でも、その対応は人として普通にヘコむ……。
「あはは、ヴァルってば大袈裟だなぁ。 でも心配してくれてありがとう」
フリーダちゃんよ、それは大袈裟じゃないんだよ。 ドランヴァルト・ルーデインは『君姫2』で一番のヤンデレボーイなんですよ。
下手をしたら無理心中エンドとか、監禁エンドとかがあるんですよ。
………まぁ、このフリーダちゃんなら返り討ちにしそうだけど。
トータル100話目を祝えばいいのか、それともネット小説大賞で落選してしまったことを悲しめばいいのか……。
今回のネット小説大賞、100作品中で46作品が書籍化だったのですが、まぁダメでした。
ま、人生ってそんなもんですよね。
次回作の製作とアフターストーリーの製作を頑張ります!