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目が覚めるとベットの上だった。ここはどこだろう。自分の部屋ではない。
ベットとサイドテーブル、椅子が一つだけの、飾りも何もない部屋だ。
体中が痛い。服は着ていなくて、薄い寝間着を着ているだけだった。
そっと体を起こした。
指先や両腕、顔、足など見えるところには包帯や、ガーゼで手当てしてあるのが分かる。
「私、あの崖から落ちたんだったわ」
あの騎士の声に励まされ、自分から、手を離した。思い切った行動だったと今思えば怖かった。
視線を窓の方へ向けると夕焼け空だった。あれから随分時間がたったようだ。しかも、村からは考えられない、町並みがみえる。たくさんの家だ。本当に知らない所だ。
その時ドアをノックする音とがして、返事をすると男の人が入ってきた。
「目が覚めましたか?私はビントと申します。」
そう言いながら、その男の人はベットの横に立ち、水差しからコップに水をいれ、渡してくれた。そして、椅子にかかっていた、服を肩にかけてくれた。
自分の格好を思い出し、赤くなりながらお礼を言った。
「ありがとうございます」
水を飲みながら、男の人を伺う。
ビントさんかぁ・・・。私を助けてくれた人ではないけれど・・・この人もカッコイイ。
取りあえず、水を飲みほしてベット横のサイドテーブルにコップを置いた。
「昨日から目を覚まさないので、心配しました」
丸一日経っていたらしい。おどろきだ。
「気分はどうですか?体中、打ち身と擦り傷だらけですが、骨は折れてないみたいです」
マリアは両手を上げてみる。確かに痛いけど指も、腕も動く。服を胸の前で押さえながら、気になったことを聞いてみることにした。
「少し聞いてもいいですか?」
「はい。私で分かることならなんでも答えます」
この人はずっと世話をしてくれていたのだろうか?
それとも、昨日私を助けてくれたもう一人の騎士だろうか・・・
「ここはどこですか?あと・・・」
視線を下に向ける。
「ここは昨日いたラニ村の東、ボノの町の宿屋です。それと、服を替えたのは、ここの主人の妻です」
胸の前の服を押さえた手を見た、仕草から私の言いたいことが分かったのだろう。一番気になったことを答えててくれる。ホッとした。
「ここは、ボノですか」
東と言ってもかなりラニ村と、離れていると聞いたことがある。
マリアは住んでいる山と、そのふもとにあるラニ村以外は行ったことがない。
ラニ村はトラス王国の西の端にある。山を越すと森が続き、大きな川の向こうからが、隣国ターレブになる。川の向こうも森が続き山がある。
「どうしてここに?」
「元々ここに泊まる予定でしたし、それなりに大きな町なので、医者など何かあった時の為に移動しました」
「あの、昨日私を助けてくれた騎士様は・・・」
「もうすぐ戻ると思いますが、今は用事で出かけています」
ビントは、すぐに答えた。
「そうですか」
昨日の人に早く会いたかったのに・・・格好良かったし、何よりあの父と同じ言葉が気になったのもあるけど、お礼を言う為だと言い訳しながら・・・残念だと思った。
「こちらからも幾つか質問します。よろしいですか?」
「はいっ」
マリアは昨日の騎士の顔を思い出していて、慌てて返事をした。
「あなたのお名前は?」
「あっ!」
今更ながら、まだ名乗ってない事を恥ずかしく思い
「遅くなりましたが、マリアといいます。助けてくれて、本当にありがとうございました」
ビントに向かい頭を下げた。
「私は、何もしていません。たまたま通りかかったのですが、声が聞こえたと思ったら空から紫草が降ってきて、あっという間の、出来事でした。本当に見ているだけでしたから・・・」
「たまたまでも、助かりました」
「マリア様の瞳は、紫色ですが、ターレブの方ですか?」
やはり紫の眼だとターレブ出身だと思われるようだ。しかし、名前に様はないでしょ。
「違います。私はラニ村の西の山に住んでいます。瞳の色は先祖にターレブの人がいて先祖返りだと、父から聞いています」
「ここにいることを、ご家族にお知らせしますので、お父様のお名前は?」
「家族はいません。去年猟師だった父が亡くなってから、ずっと一人暮らしです」
「そうですか。すいません」
ビントは聞いたことを、申し訳なさそうにしてくれた。
「それで、マリア様はなんで、昨日は崖の上にいたんですか?あなた以外にも、女の人が数人いましたよね。下からは、押された様に見えましたが・・・どうしてですか?もしよろしければ、理由を聞いてもかまいませんか?」
マリアは迷ってしまう。どうしよう?知らない人に勘違いで、モメて、崖から落ちたなんて・・・言うこと?押されたけど、相手は崖から落ちるなんて、思ってもいなかっただろうし・・・そうだ、話をそらそうと、
「あの本当に、マリア様はやめて下さい」
「では、マリア嬢で」
ビントがニッコリ笑って、素早く答える。
「それで、理由は?」
よろしければと言いながら、結構強引だ。
マリアは、仕方なく村娘たちと、もめた話をすることにした。