表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の娘とトラス王国  作者: マヤ
5/16

5

 マリアは、横から押された反動で、体は二回ほど回転して胸から地面に叩きつけられた。

 「うっ」

 木々がまばらな斜面を滑っていく。とっさに手を伸ばしてみても、つかまるものは何もない。

 このまま行けば、切り立つ崖の上に出てしまう。

 下は見えるところに山道が通っているが、落ちればタダではすまない。

 しかし、止まらない。


「キャーッ」と遠くに村娘たちの声が聞こえる。


 手は土を引っ掻くように、足から滑り、ついには崖のふちについてしまう。

 目に付いた、一本の細い木に、何とかつかまってこれ以上落ちないよに願う。

 しかし、体の半分以上が崖から出て、木に腕でぶら下がっている状態だ。

 この木もいつまでもつかわからない。

 顔や体、とにかく全身が痛い。

「助けて!誰か助けを呼んできて!」

 もといた場所に顔を向け叫んだ。

「お願い、誰かを早く・・・」

 遠くの木々の間に村娘たちが見える。

「私たちのせいじゃない。自分で落ちたのよ!」

 そう言い残して娘たちは視界から消えてしまった。

「・・・嘘でしょ」

 マリアは取り残されてしまった。


 助けは諦めるしかない。自分で何とかしなくては。

 冷静になって周りを見回してみる。

 下の山道まで、かなり高さがある。木を伝って降りることはできるのか?

 もう、腕がしびれて手の力だけでは、上には上がれない。

 少し下に、もう一本木が見える。この木より太そうだ。

 ・・・あそこまで行けるかしら?

 落ちるようにしてつかまらなくてはならない。

 そのあとは・・・どうしよう・・・


 いい考えがうかばなくて 泣きたくなってしまう。

 勘違いで罵られ、叩かれて、崖から落ちるなんて。

 一番のショックは瞳のことを言われたことだ。

 私の顔は20歳にしては幼い。背も低ければ、胸も小さい。そのうえ、普通は16歳から18歳ぐらいで結婚するが、病気だった父の看病で行き遅れ。

 父が結婚は、もう少し先でいい。まだ一緒に暮らしたいと、言っていた。もちろん、そんな相手もいない。

 マリアが小さい頃から、瞳が綺麗だと言って

「そのアメジストのような瞳をほめてくれる人と、結婚しなさい」

 そんな男じゃないと嫁には、やらないし、許さないと・・・

 自分でも、みんなと違う色だがこの瞳が一番気に入っている。それなのに

「悪魔って、ひどすぎる」

 いろいろ考えているうちに、木がしなりはじめた。根元から抜けそうだ。


 泣いている暇はない。

 取りあえず、下の木にうつることにした。ななめ下だ。

 木が抜けるギリギリまで待って、横に飛ぶ。体全体が引っかかった。

 ホッとしたとき、下から声が聞こえた。


「おーい!声が聞こえるか!聞こえたら手を振れ!」 

 下を見ると山道に、馬に乗った騎士が二人見えた。

 マリアは、手を振った。もしかしたら、助かるかも知れない。

 置き去りにされて、どうしようかと思っていたが、人が来たことでとても心強くなった。

「その下の木にもう一度移れ。そのあとは飛べ。必ず受け止める」

 騎士の一人が言った。

 よく見ると真下だけどかなり下のほうに木がある。移るというより、落ちて木をつかまなければならない。その木で崖の半分として、飛べとは、また同じだけ落ちるということ。受け止めてくれるの?本当に?

 私にできる?

「大丈夫。さっきできたから、必ずできる」

 その声に励まされ頑張るしかない。だってもう、降りるしかない。

 今いる木の枝につかまり、ゆっくりと手をはなす。

 落ちる。


 

 失敗した!木をつかみきれなかった。枝をつかんだ反動がすごく、手をはなしてしまった。

 服が枝に引っかかり、今度は頭から落ちる。もうダメだ。目をつむる。


 背中にすごい衝撃があった。でも、柔らかい?そっと目を開けると、さっきの騎士が私を受け止めてくれたみたいだ。山道に二人で倒れていた。私は騎士の上に乗っている。

「大丈夫か?」

 騎士が起き上がり、顔を覗き込まれ、目があった。

 カッコイイ。こんな人いるんだ。

「目が紫なんだな。アメジストみたいで綺麗な色だ」


 驚いた。父と同じことをいうなんて・・・

 そんなこと言う男の人初めてだ・・・

「助かってよかったな」

 驚きと、ホッとしたので意識が遠のく。

 お礼も言えてないのに・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ