救出
「こ、これは…。」
ハルは燃え盛る飛行機の前に降り立ち、絶句した。前後に乗るタイプの2人乗りの小さな飛行機が、積み上げられた藁の山に頭から突き刺さっていた。
何らかのトラブルで飛行中に体勢を崩し、ここに墜落。たまたま下にあった藁に突き刺さり、炎上。ハルの頭にそんなシナリオが浮かんだ。彼女に出来ることは、キュウちゃんに消防隊を呼んでこさせることぐらいだった。
「な、なんてこった…。」
「…!」
火事にばかり注目が行って、自分の他にこの惨状を見ている男がいることに気付かなかった。男は顔面蒼白で、藁の山の前で茫然と立ち尽くしている。その動揺の具合から見て、この牧場の主に違いない。
「おじさんここの牧場の人かしら?」
「あぁ。」
「この飛行機はどうしてここに来たの?」
「知らねえよ!!俺は大きなエンジン音がするなと思って窓を開けたら、フラフラ変な飛びかたして落ちてくる飛行機が見えたから、豚小屋に突っ込んでねえか心配になって見にきたんだ!!そしたら干してた藁の方で火が見えて…。」
「それってどれくらい前なの?」
「ついさっきだよ!ほら、あそこに俺の家が見えるだろ?」
男が指差す方向には、確かにこじんまりとした家が見えた。
バルルルルル!その時、大きなエンジン音とともに赤い飛行機が2台飛んできた。
「うぉ!?消防車だ!」
男がすっとんきょうな声をあげている間に、消防車2台は上空からの消火を始めた。燃え盛る炎が大量の水によって瞬く間に消えていく。
「…すげえ、初めて見たぜ。」
男は目の前の光景に目が釘付けの様子だ。
火を完全に消し去ると、消防車は地上に停車した。すぐに中から消防隊員達が降りてきた。
「ハルさん!!あの飛行機の中にはまだ人がいるのですか!?」
顔見知りの隊員が声をかけてくる。
「そのようです。」
「それは大変だ!今から救助作業を行いますので、危ないから一般の方は下がっていて下さい!!」
隊員達はまだ熱い鉄の塊に果敢に挑んでいった。まずは藁に刺さっていない後部ドアをこじ開けるつもりだ。
男とハルはそれらを固唾を飲んで見守っていた。
「くそっ!開かないぞ!」
「ドアが歪んでるんだ!!」
「誰か巨大ペンチ持ってこい!切断するぞ!!」
「了解!」
「………開きました!!中に人がいます!!生きています!!」
後部座席から、一人の女が助け出された。隊員の一人が彼女を担いでこちらまでやって来る。女性は気を失っているらしく、ぐったりしている。ハルは急いで鞄からシートを出し、地面に広げ、即席のベッドを作った。
「先生、お願いします!!」
隊員はその即席ベッドに女性を寝かした。
「…。」
ハルはすぐに彼女を診た。
「…火事の影響でところどころに火傷をおっていますが、命に別状はありません。」
「―ふう。」
ハルの後ろで心配そうに見ていた男がため息をつく。
ハルは女性の黒い煤が付いた頬をぺちぺち叩いた。
「もしもし!わかりますか?もしもし!」
「ん…。」
女性は目を開いた。
「…ここは…。」
ハッとした様子でベッドから身を起こすと、ハルを見て、次にレスキュー隊員達に囲まれている飛行機を見た。
「彼は!?まだ中にいるの!?」
「…今レスキュー隊が中の人物を救助しています。」
「そんな!!パリス!!」
女性が我を忘れて飛行機に向かって身を乗り出すのをハルは慌てて押し留めた。
「私達が行っても何も出来ません!邪魔になるだけです!!」
「でも、パリスが!!」
「落ち着いて下さい!!」
その時、飛行機から隊員達の興奮した声が届いた。
「パイロットです!!パイロットがいます!!」
「よし!!すぐに出せそうか?」
「…このシートベルトさえ外せれば…よし、切れました!!救助します!!」
ハルと女性、それに男が固唾を飲んで見守る中、一人の男性が運び出されてきた。
「…パリス!!」
女性が制止を振り切って駆け寄っていく。ハルもそれに続いた。