夜空を舞う天使
夕暮れ時のエトワールの街の美しさを知っている人はどれくらいいるのかしら…。今まさに太陽が最後の輝きを放って空から消えようとしている。真っ赤に照らされたこの街は、まるで何千年も前から存在している遺跡のように、妙に静かで、神秘的だ。そんな呑気なことを考えながら、私は街の上空を旋回する。
私がこの活動を始めたのはこの病院で働き始めてからだ。最初に病院長先生に申し出た時は、正直あんなにすんなり認められるとは思っていなかったから拍子抜けした。
先生の二つ返事に、私は先生が私と同じ思いを抱いていたのだ…と改めて気付かされた。
先生は私の提案を受け入れ、すぐに私の同僚達に働きかけてくれた。同僚の中には当然それに異を唱える人もいたけれど、彼らには先生が新しい科や新しい病院を与えて下さり、結果、やる気のある者だけが残る理想的な職場が出来上がった。勿論、異動となった者達も、今まで以上に良い条件の職場につくことが出来、喜んで移っていった。
私の提案、それは…。
「ホーホー!」
「…!」
先程までは優雅ともいえる動きで滑空していたキュウちゃんが急に動きを変えた。明らかに目的を持って下降し始めたのだ。すでに日が暮れた今ではハルの目はあまり役に立たないため、キュウちゃんが頼りである。きっと何かを見付けたに違いない。
「何があるの?」
ハルは必死にキュウちゃんが進む方向に目を凝らすが、まだ目標を捉えることは出来ない。キュウちゃんはどうやら農業のエリアに向かって飛んでいるようだ。
夜の空気に混じってきな臭い風が流れてくる。
地上から300m地点。
はるか下に、ポツンと小さなオレンジの点が見えた。
200m、150m、100m…。
どんどん高度を下げていくキュウちゃん。ここは牧場が多く存在するエリアだ。ポツンポツンと建てられている、小さな点でしかなかった民家の屋根達がはっきりと見えてきた。
50m、40m、30m…。
きな臭さはどんどん増していく。オレンジの点は風に吹かれて揺らめいているように見える。
20m、15m、10m…。
もう見間違えようもない。あれは…。
牧場にゴウゴウと巻き上がる炎。飛行機が…いや、かつて飛行機だったものが黒煙をあげながら燃えていた。