武器屋と剣
武器屋が持ってきたのは1本の美しい彫刻の施された剣だった。
低いテーブルを挟んで武器屋と対面したハルは毎度のことながら、木箱に納められた状態でテーブルに置かれたそれを見て、ほうと溜め息をついた。
「手に取っても良いかしら?」
「勿論ですとも。」
武器屋が手袋をはめて直に触らないように箱から出してくれたそれを、ハルも聖域で使用しているのと同じグローブをはめた手で受け取る。
「…。」
黙って握り心地を確かめる。バランスを確かめる。柄から剣先までの長さを目で測る。
「素晴らしいわね、これ。」
「ありがとうございます。」
武器屋は頭を下げる。そして、毎回の流れから聞かなくても良いことを一応聞いてみる。
「試し切りをなさいますか?」
「ええ勿論。」
武器屋はこの即答に、待ってましたとばかりに両手をパン!と合わせた。すると、武器屋とハルは、いつの間にか聖域そっくりの場所におり、あの壁が目の前にあった。ここは武器屋が作り出した疑似聖域なのである。
「今回は、切れ味にとことんこだわった仕上がりとのことです。」
武器屋の説明に、ハルは黙って剣を振りかざす。スパン!気持ちの良いぐらい綺麗な裂け目が壁に出来た。
―ほう。
ハルは改めて剣を見つめ直した。
「…確かに、とても斬りやすいわ。それに―。」
2、3回素振りしてみながら言葉を続ける。
「―それに、ちょっとだけ前より重く作って下さったのかしら。」
「…!」
武器屋はかなり驚いた表情で、ハルに答えた。
「さすがはハル様。きっかり15g、前の物より重くなったと聞いております。」
「そうなの。…これくらいなら問題は無いわね。むしろ手にしっくり来る。」
元々ハルがこの武器屋を選んだのは、ここならハルの手に合う剣を手に入れることが出来るからだ。大概の剣は男物で、ハルが使用するには重すぎた。その点ここの武器屋はどんな剣を探しているかを伝えれば、剣作りの職人と直接取引をしているらしいので、期待通りの剣を持ってきてくれるのだった。
軽さ重視のハルの剣には宝石などをごちゃごちゃ付けることは出来ない。だから職人は、逆にそれを生かして、柄の部分にシンプルかつ優美な彫刻を施してくれていた。また、柄頭に唯一はめ込まれたサファイアが剣全体をぐぐっと引き締めている。
満足げなハルに、武器屋はまた手を叩いて、疑似聖域からハルの部屋へと空間を元に戻した。
「いつもいつも私のわがままを聞いて下さってありがとうございます。」
「いえいえ、今後ともどうぞ御贔屓に。」
ハルがこの剣を買いますと宣言すると、そう言って武器屋は剣を置いて帰っていった。
部屋に残ったハルは剣を一旦箱に直し、午後から再び戦場に赴く為に準備をし始めた。