蛇口とホース
「ポ、ポンプを止めてしまうのか?」
「ああそうさ。」
事も無げに言うセゾンに、サーベルは理解できない、と言った様子で言葉を続ける。
「そんなことしたら、死んでしまうだろ!?」
「それはハルさんの腕次第さ。」
「なっ…。」
「まあよく聞いてくれよサーベル。今からちゃんと説明するからさ。」
そう言ってセゾンは、おもわず立ち上がっていたサーベルに座るよう促した。
「まず、管の説明からしよう。ポンプから太い管が出ているのは見えるだろ?ほら、上に向かって伸びていっているやつだ。
管は3つの膜で出来ていて、一番内側の膜がなんらかの原因で亀裂が入ってしまうことがあるんだ。
すると、内側と中間の膜の間に水が入って、中間の膜がそれこそ竹を割るようにスパーンと剥がれてしまうんだ。」
「…!」
サーベルの頭の中で、水で出来た斧で輪切りにした竹を割るきこりの姿が浮かんだ。
斧が入った箇所から、竹は縦に一直線に割れた。
「本来水は一番内側の膜で囲まれた空間を通っているが、先程説明した内側と中間の膜が剥がれたことによって出来た空間にも入ってしまうんだ。
新しく出来た空間は非常に薄く、破裂したり、水が漏れでたりしてしまうんだ。これがどんなに大変なことか分かるかい?」
「つまり…ボロボロのホースを蛇口につないで水を流している途中に、蛇口のすぐ近くのホースが割けてしまうということかい?」
「その通り!!」
「なんてこった!そんなことになったら水が全部漏れてしまうじゃないか!!」
「そうなんだ。だからボロボロのホースを修理する必要があるんだ。でも、サーベル。もしホースを修理するなら君ならまずどうする?」
「とりあえず蛇口を閉めて…あ!」
「そう。水が流れっぱなしでホースを修理する人なんていないだろ。ハルさんもそれを同じことをするだけさ。」
その頃ハルは、ポンプからでてすぐの管の部分に太いチューブを挿していた。
「あれは何をしているんだ?」
「あれは、人工のポンプに繋がるチューブなんだ。」
「人工ポンプ!」
「ああ。別にもう1箇所、チューブを挿している所があるんだ。あのチューブを命の水が通ることで、ポンプ自体には水が通らなくなる。迂回路が出来たと思えば良いかな。」
「工事中のため通行止め…こちらの道を通ってください、ってことか。」
「まさしくな。」
「よし、人工ポンプとの接続完了ね!」
「人工ポンプ回します!」
緊張の一瞬…良かった!チューブ内を水が流れていく。問題なし!
ここで問題など起こっているようでは話にならないと思いつつ、私は内心安堵の溜め息をついた。まだまだここからだ、本当の勝負は。
ハルはちらっと壁の時計を見ながら、次の作業に取りかかった。