ハート
一方その頃、患者の家族に説明を行うというハルと別れたサーベルは一人、看護師に案内され小さな部屋にいた。
その部屋にはカーテンがしかれた大きな窓と、窓に向かって置かれた二つのスツールがあった。
それに座るでもなく、部屋をうろうろしながら待っていると、コンコンとノックの音がし、ガチャっと扉が開いた。そこにいたのは―。
「…セゾン!!」
「サーベル、待たせたな。」
病院長のセゾンが、お茶の入ったビンを片手に立っていた。
チン!二つのグラスが合わさり、乾いた音がする。
「乾杯!」
「乾杯!」
サーベルとセゾンはお茶をぐいっと飲み干した。
「それにしても…こんなにのんびりしてて良いのかい?大変な手術なんだろう?」
「なーに、我々が出来ることなんて何もないのさ。こうして遠くから見守っている人間は、どんと構えてなければ見届けることすら出来ない。何しろ平均6~10時間はかかる大手術なんだから。」
「10時間!?」
「あぁ。…ハルさんはどんな手術を見せてくれるかな。」
「先生、魔法の準備が整いました。」
「ありがとう、マジ。」
聖域に入ると、私は戦士になった。手にしているのはサーベルさんが作って下さった剣。
目の前にはすでにあの壁が、壁の向こうのポンプが、私を待っていた。
どんな手術でもそうだけど、失敗は許されない。それがどんなに難しい物でも。
「今日は…とても長い手術になるわ。みんな、よろしく頼むわね。」
「「「「はい!!」」」」
私の後ろには優秀なスタッフがついてくれている。
戦士のボブ、戦士のサン、武器使いのナナ、魔法使いのマジ。
一人一人、私は順番に顔を見ていくと、皆が私を見て頷いてくれた。
彼らの信頼を、患者さんの命を、患者さんの家族の思いを損なうわけにはいかない…!
「始めます。」
私は、壁の中央に向かって剣を大きく縦に振りかざした。
「あ、始まったね。」
こちらはサーベルとセゾンがいる小部屋である。
部屋のカーテンを開けると、窓からちょうどハル達の背中が見えた。
「おぉ!!ハル先生おもいきりが良いなぁ!!私の剣の持ち味を最大限引き出してくれているようだよ!!」
サーベルは迷いなく剣を使って切り進めて行くハルに興奮気味だ。
「ははは。ああ見えてもハルさんは10年目の戦士。経験を積んで、ちょうど脂がのってきたところさ。」
「そうかいそうかい。それで、これはどのような任務なんだ?」
「簡単に言うと、ポンプに繋がる管の修復作業かな。」
「修復作業?」
「あぁ。ポンプの役目は知ってるよな?」
「勿論。全身に命の水を送るんだろ。」
「その通り。あれがポンプだ!」
その時ハルはちょうど、ポンプを包む膜を切り開き、ポンプを直接目にしたところだった。
ドクン。ドクン。
こうしている間も、規則正しく縮んだり伸びたりしながらポンプは命の水を送り続けている。
「どうだい、初めて見るポンプは?」
「…なんというか、感動する…な。本当に動いてるんだな。」
「当たり前だろ。動いてなきゃ困る。ま、今から止めるんだけどな。」
「え?」