昼休憩
ズーっ。ズーっ。
私達は結局、病院に入っている蕎麦屋さんでお昼を食べることにした。普段は適当に購買でパンかおにぎりでも買ってパパっと済ませるのだが、相手が病院長の友人ということで部長から何か良いものを食べてこい!との命が下った。かといってわざわざ普段着に着替えるのは時間がかかりすぎる。そこで、美味しいと評判のこの店で手を打ったのだ。ちなみに、普段パン食が多いエトワールの住民にとって蕎麦はそこそこ良い昼御飯に相当する。
「なかなかいけますな、ここの蕎麦は!」
「でしょ!私もなかなか来れないのですが、ここの十割蕎麦はちょっとした名物なんですよ。」
今日は開店したと同時に来たので、人が少なくて助かった。昼時に行列が出来ているのを何回か見ている。元々病院に来る見舞い客を対象にした店だったが、評判を聞いて病院関係者も続々と訪れている。実は病院長先生も来ているとか来ていないとか。
良い食事は良い関係を作る。―と私は勝手に思っている。先程までICUショックで表情が雲っていたサーベルさんだったが、今は大分明るくなっていた。軽く雑談を挟みながら、私達は蕎麦を堪能していた。
「…どうしてハル先生は、救急医になろうと思ったのですか?」
デザートに蕎麦プリンを食べながら、サーベルさんが聞いてきた。やはり来たか、と思いつつ、 私はそれに真剣に答えようと努めた。
「そうですね…。一人でも多くの人を救いたい、そう思ったからでしょうか。」
「ここでの生活はとても大変なように見えます。しかも、あなたは夜にも活躍してらっしゃるのでしょう?」
「えぇ。…確かにとてもハードですね。でもとても遣り甲斐を感じています。私がこの世に繋ぎ止められる命がある、それだけで私は何時間でも動けますわ。」
詳しくは語らなかった。でも、サーベルさんは何かを感じとってくれたようだ。
「ふふふ、噂通り、天使の様な方ですね。」
「あら、天使だなんてとんでもない。」
私達はにこやかに笑いながら蕎麦をすすった。