剣職人
部屋に入ってきたサーベルは、まずハルに声をかけた。
「ハル先生、この度は私を救って下さりありがとうございました。お陰様で今はピンピンしております。」
「いえいえ、医者として当然のことをしたまでですから。」
―サーベルさんの虫垂炎を手術したのは3日前のことだったから、予定通り順調に回復したということか。良かった…。
「サキ、元気にしてたかしら?」
私は少し身を屈めて目線を合わしながら、サーベルさんの後ろからついてきた少女に話かけた。
「うん!!元気だよ!!先生は?」
「私も元気よ。」
―本当に元気いっぱいに返事してくれるサキに、私は暖かい気持ちになった。あの日は不安で泣いているところしか見れなかったけど、こちらが本来の彼女なのだろう。どうか、このままサーベルさんに悪魔の呪いが起きませんように…。
ハルはこっそり祈らずにはいられなかった。
「さあさあ、挨拶が済んだところで、私から友人の紹介をさせて下さいませんか。」
にこやかな表情で3人を見守っていた病院長が、頃合いを見て口を挟んできた。
「サーベルさんは私の大学時代の友人で、あなたも知っての通り3日前からこちらの病院に入院してらっしゃいました。彼は、実は腕利きの剣職人です。」
「…!剣ですか!!もしや…。」
「さすがはハル先生、察しが良いですね。あなたの剣は、このサーベルさんによって造られたものなのですよ。」
「…!!」
思わぬ展開に、ハルは素直に驚いてサーベルの方を見た。
「初めて先生にお会いした時、女性なのに救急医の格好をしてらっしゃったからもしやと思ったんですよ。まさか、自分の造った剣の恩恵を受ける時がくるとは…。世間は狭いもんですな。」
感慨深そうに言うサーベル。
「サキが私の手術を見ていたく感動していましてね。私も一度、見学させて頂きたいと思ったんですよ。私の剣がどのように使われているのかをね。」
「…だから私にお声が掛かったんですね。」
「その通りです。」
ハルに答えたのは病院長だった。
「今日必ず手術が入るとは限りませんが…。」
「その時はその時。サーベルさんも分かってらっしゃいますよ。」
うなずくサーベル。病院長がダメ押しをかけてきた。
「すでに部長先生には話をつけていますから心配ありません。今日一日よろしくお願いしますね、ハル先生。」
「…分かりました。」
こうして、サーベルの一日救急見学はハルに託された。