ハルの提案
ハルが病院長先生に提案したこと、それは日没から夜明けの間、エトワールの街の見回りをすることだった。
いつ何時事故が起こるか分からないこの飛行機社会。民間で飛行機を所有している人はまだまだ少数派のため、さほどではないが、年々確かにその所有人数は事故数とともに増え続けている。
一旦起こってしまえば、そこから先、命が助かるかどうかは医療行為が行われるまでの時間に大きく左右される。ならば、現場ですぐに医療行為を始められるように医者である自分が現場を発見する、あるいは連絡鳥を受けて現場に直接向かえば良いのではないか。
また、事故が起こった時、病院に知らせるめには連絡鳥が必要なのだが、連絡鳥を養うには当然お金がかかる。つまり、中には連絡鳥を飼っていない家もあるということだ。
そんな人達が助けを呼ぼうとすれば、誰か他の家の人に頼んで連絡鳥を借りなければならない。…先日助けたサキのように。そのような人達を見つけたら、自分が病院に連絡鳥を放つ。そうすれば良いのではだろうか。
両者ともに、キュウちゃんの飛行能力と闇夜でも利く目を生かしてこその戦法だ。つまり、ハルにしか行えないということである。また、実際にこれを行うと、夜間に訪れる患者数が増えるため、当直医や夜勤の看護師の負担が増加することになる。
それでも、だ。それでも一人でも多くの命を救いたい、その信念だけで動ける人達が、ハルの提案にのってくれた。その事実はハルを大いに励まし、結果、暇さえあればずっとこの活動を続けている。勿論、ハルとてこれがエトワールの街に多くの利益をもたらすとは思っていない。ハル一人では限界がある。しかし、これが今のハルに出来る精一杯だった。