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合言葉はコード・ブルー  作者: ren
プロローグ
1/26

Aster of Blue~青い天使~

医療系を書いてみたいけど、ファンタジーにしたい、という気持ちで書き出しました。

医療系が苦手な方でも読めるものを目指して行きたいと思います。

もし良ければ、それが無理なんだ!!とかなんでも良いのでコメント下さるとありがたいです。

暗い夜道を一人の少女が走っていた。幼い顔を真っ赤にして脇目も振らず、うら寂しい路地を駆け抜けていく。


少女の行く先を照らすのはわずかな月明かりのみ。もしこれが雲に阻まれてしまえば、少女は方角も何も分からず身動きがとれなくなってしまうだろう。しかし、少女にはそれを気にしている余裕すらなさそうだ。


かつては履いていただろう靴はとうに脱げ、視界は涙と汗でもはや見えていないといって過言ではない。それでも彼女は走るのをやめようとはしなかった。一体、何が少女をここまで突き動かしているというのだろうか。


やがて少女は、混みごみとした小さな家がひしめく住宅地へとさしかかろうとしていた。


「……もうすぐ、もうすぐだから。」


そう、少女の目的は誰か人を見つけることだった。誰でも良いから助けを呼ぶことだった。少女は手当たり次第、目についた民家の戸を叩いては叫んだ。


「すみません!すみません!誰かいませんか!?」


しかし、どの家からも反応が返って来ることは無かった。仕方がない。この御時世、夜中に大声で喚くものに扉をあける物好きはそう多くないだろう。


「誰か!誰か助けてよー!!」


ついに彼女は絶望のあまり天に向かって絶叫した。


「お願い……誰か……。」


もはや限界だった。幼い足で、暗闇の恐怖に耐えながら必死に走ってきたのに……。


掠れたその声はもう誰にも届かない。しかも運悪く、ついに、月がその姿を雲の向こうに隠してしまった。完全な暗闇と静寂の中、少女がふらっと道にへたり込み、こうべを垂れて静かに啜り泣き始めたまさにその時だった。


――フワリ。


少女の前髪を揺らす、小さな物風が起きた。それはほんのわずかなものだったが、少女は確かに、空気の動きを、人の気配を感じた。


この時間帯、この場所に人が通りがかることなど滅多に無い。――もしや、誰かが自分の声に応えてくれたのか、家から出てきてくれたのか。そう期待を込めてパッと顔を上げると……!


ちょうど出来た雲の切れ間から、月がまるでスポットライトのようにそこだけを照らす。……目の前にいたのは、長身の女性だった。


「え……。」


思わぬ展開に驚き固まる少女。女性は青い上衣を着て、青いズボンを穿き、腰には青いポーチをぶら下げていた。その後ろには、女性の肩まである大きな白い鳥がいた。


少女はこの女性の格好や見たことがない鳥に驚いていたのではない。むしろ、それはまさに彼女が自分の全てを賭して求めていたものだった。しかし――。


『……え?夢だよね?』


呆然と道端に座ったまま、少女は自分が目の当たりにしているものを全く信じることが出来ずにいた。この極限状態で、自分が生み出した幻覚に違いない。そうとしか思えなかった。


ちなみに、この時代において「青」が指し示す職業はたくさんある。しかし、上から下まで青色に染められた専用の戦闘服(ケーシー)を着る職業となると、もう一つに絞られてしまう。少女も実際、間近で見るのは初めてだった。同じような戦闘服で白色のもの――いわゆる白衣(ガウン)なら、祖父について月に何回か行く病院で見慣れているのだが。


『……夢、見てるだけだよね。だってこんなところにお医者さん(ドクター)がいるわけない。しかも救命医(ERドクター)だよ!? 第一、女の救命医なんて見たことも聞いたことも――。』


「私は歴とした医者よ。」


「!!」


まるで少女の思考を読み取ったかのように、女性は口を開いた。その凛とした声は少女の両方の鼓膜を震わせ、ショートしていた思考回路を復活へと導いた。


『……本物の!お医者さん!だったら……!!」

「お、おじいちゃんを助けて!!」


驚きのあまり止まっていた涙が再び込み上げてくるのを感じながら、少女はどうにか事態を説明しようと試みた。


「おじいちゃん、急にお腹痛いって言ったと思ったらすぐにうずくまっちゃって。私、おじいちゃんと二人で暮らしてて、それで……。」


「家まで案内してちょうだい。」


女性は短くそう言うと、女性の手を取って立ち上がらせた。その顔はとても真剣で、少女が伝えたいことをちゃんと理解してくれたとすぐに分かった。少女の胸に、希望の光が灯った。


「こっち!!」


少女は元来た道に向かって走り出そうとした、が。


――フワリ。気づけば女性に後ろから抱きすくめられ、大きな白い鳥の背に乗っていた。


「!!」


「こっちの方が速いでしょ?」


驚く少女に、女性がどう、乗り心地は、と笑いかけた。その笑顔を見て、少女は自分が根拠の無い安心感に包まれるのを感じた。否、根拠なら目の前の女性から溢れてきている。だって、これは奇跡なんだから。女性はきっと神様が遣わせてくれた天使なんだ。絶対絶対、そうに決まってる!!


『――おじいちゃん、もうすぐお医者さん連れて帰るからね。』


超低空飛行する鳥の上で、少女は逸る気持ちを祈りに転じた。

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