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七章 ~既視感 同時に事後処理~

 あの阿呆を追い払った後、「私」は牧野さんの元に駆け寄った。

「大丈夫? あっ、怪我してるじゃない」

 見れば、頬と左腕に血の跡がある。頬のほうは掠り傷だけど、左腕のほうは結構深いみたい。

「待ってて。今治すから」

 私は彼女の左腕に触れる。その時彼女の体が大きく震えたけど、とりあえずそれは無視して治療を優先する。指先から血を這わせて、彼女の傷口に侵入。残っていた弾丸を押し出して、傷口から吐き出させた。そして後はそのまま固めて、瘡蓋かさぶたにしておいた。これで多分、大した傷跡も残らないだろう。

「はい、これで腕のほうは大丈夫よ」

 そして彼女の顔を見やれば、怯えたような、しかし安堵したような、よく分からない表情を浮かべていた。尤も、それも涙のせいでぐちゃぐちゃなのだけど。

「大丈夫。私は、あなたの味方よ。傷つけたりしない」

 とにかく、脅威(あの阿呆)は去ったのだから、彼女を安心させたかった。彼女の頬に手を当て、優しく微笑みかける。ついでに、この傷も治してしまおう。

「だから安心して。ね?」

 すると牧野さんは、堰を切ったように、声を上げて泣き出した。余程怖い思いをしたのだろう。当然、と言えばそれまでだけど。だから私は、そんな彼女を、泣き止むまで、抱きしめてあげた。


「落ち着いた?」

 しばらくして、私の問いに、牧野さんはただこくりと頷いた。

「とりあえず、家まで送っていくわ」

 立ち上がり、牧野さんの手を引っ張って立たせてあげる。まだ完全に落ち着いていない彼女の手を引いて、人気の多い通りまで連れて行く。たったそれだけの動作だけど、そんな行為に、私はどことなく懐かしさを覚えていた。

「大丈夫?」

 時々後ろを振り返り、牧野さんの様子を確認する。彼女は黙って、小さく頷いてくれる。そんなやり取りをして、私は、感じていた懐かしさの正体に気づいた。

(そういえば、小さい頃からこんな役回りだったわね、「私」)

 弟妹や友達が泣いたとき、こうやって手を引いて、家まで一緒に帰ったっけ。こんなことを思いながら、私は牧野さんを送っていった。


「はい、ついたわよ」

 暫くして、牧野さんの家に到着する。何で家の場所を知ってるかって? そんなの、ただの勘よ。……というのは冗談で、彼女に道を聞きながら歩いたのだ。

「念のため、ちゃんと中から鍵をかけるのよ。いい?」

 牧野さんは静かに頷くと、足早に家へ入っていった。扉が閉まった後に鍵をかける音がしたから、大丈夫だとは思う。

 私はほっと一息吐いて、それから家路につくのだった。

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