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八章 ~異変 突入~


  ◇



 僕は帰宅した後、洗濯物を取り込んで、それを畳んでいた。本当はあやめの家に電話して、夢の様子を聞きたかったのだけれど、まだ帰っていないかもしれないので、それまでは家事で時間を潰すことにした。

「ふぅ……そろそろ電話しますか」

 全部畳み終え、丁度いい頃合になったので、いい加減あやめの家に電話を掛けることにする。電話機の置いてある場所まで行くと、まるで僕が来るのを待ちわびていたかのように電話が鳴り出した。ディスプレイに表示されている名前は―――あやめ?

「あやめから? 夢が何かしたんでしょうか……」

 因みに、この表示はあやめの携帯電話から掛かってきたことを意味している。屋敷の電話からだと「綾小路」と表示されるのだ。

「もしもし、あやめですか? どうしたんです?」

《……優?》

 電話越しに聞こえるあやめの声は、どことなくか細くて、弱々しかった。いつも騒々しい彼女には、似つかわしくないくらいに、全く。

「もしかして、何かあったんですか?」

 あやめがここまでしおらしいのは尋常じゃない。何か、とんでもないことが起こったのは明らかだ。

《優、大変なの……うちが、占拠されちゃった》

「占拠……?」

 つまり、あやめの屋敷が、何者かによって占拠されたということだろうか? そんな馬鹿な。あの屋敷は厳重なセキュリティが仕掛けられているし、屈強なボディガードが何人も詰めてる。あの広い屋敷を占拠出来るほどの人数が、簡単に暴れられるとは思えない。僕だって、やろうとすれば命懸けになるだろう。

《私にもよく分からないんだけど……突然大きな音がしたと思ったら、高洲さんが慌てて私のところに来て、そのまま私を隠してくれたの》

 なるほど。高洲さんはあやめの安全を第一に考えて、彼女をどこかへ隠したのだろう。あやめなら携帯を持っているから僕を呼べるし、どの道夢のことで連絡を取ったはずだから、異変を感じて駆けつける可能性は高い。それまで隠れ続けていれば、少なくともあやめは大丈夫だろう。

「分かりました。今からそっちへ向かいますから、それまで静かに隠れてて下さい」

《で、ても……!》

「静かに」

 あやめが声を荒げようとしたので、すぐさま制止する。ここで物音を立てて見つかったら、あやめが危ない。

「僕なら問題ありません。これでも一応、魔女の末裔ですから。大規模な軍事兵器でもない限り、簡単にはやられません」

 実際はそこまで強くないけど、銃器くらいなら防げるし、大袈裟に言って安心させたほうがいい。

「というわけで、静かに、大人しく待っていてください。すぐに終わらせますから」

《……うん》

 あやめが返答したことを確認し、僕は電話を切った。……さて、これから忙しくなるぞ。



 僕はすぐさま、あやめの屋敷へと足を運んだ。その途中、念のために能力を全開にして、周囲に犯人一味がいないか探ってみたのだけれど―――

「……おかしい。全然反応がないです」

 周囲の人間から思考を読み取る「僕」の能力が、全くと言っていいほど機能していない。いや、一応どうでもいい思考は読めているけど、悪意に関する思考が全然察知できないのだ。しかも、屋敷に近づくに連れて、どうでもいい思考すら読めなくなってきている。……まるで、夢をあやめの屋敷に運んだときみたいに。

「……夢。一体、何を考えているのでしょうか?」

 ここまでくれば、もう明確だ。夢に対する狙撃と、綾小路家の占拠。どちらも、夢が関与している。それも、主導或いは支援していると考えて良さそうだ。

「とにかく、早く向かわないと……」

 夢が引き起こしたのなら、あやめたちに危害を加えている可能性は低いだろうけど……それでも、彼女の目的が見えない以上は急ぐべきだろう。



 やがて、あやめの屋敷が見えてきた。そして相変わらず、第六感には反応なし。とりあえず、近くの茂みに隠れて待機して、屋敷の様子を窺ってみる。

「……門が、開いている? 普段は閉めてあるのに」

 あの門にも防犯装置が仕掛けられていて、一定時間以上開けておくとブザーが鳴るはず。しかし、今は至って静かだ。来客時には解除するんだけど……多分、押し入った連中が屋敷のセキュリティを停止させているのだろう。

「他に変わった様子はないし、能力で探りを入れるのも無理、か……」

 状況を把握するのが困難な現状では、こうしていても事態は進展しない。寧ろ、あやめの精神が持たず、犯人たちに見つかってしまう可能性のほうが高い。出来ることがあるとすれば―――強行突破のみ。

「……仕方ない」

 このまま踏み込んでもいいけど、もし相手が武装していたら分が悪い。せめて、銃器を完全に防げる状態にはしておかないと。

「まあ、風の装甲が無難ですかね」

 「僕」の能力を用いて、風を身に纏うことにした。軽くて動きやすいので、それが一番だろう。とはいえ、防弾チョッキを貫通するような弾が相手だったらどうしようもないけど。

「さてと……踏み込みますか」

 茂みから飛び出した僕は、そのまま門に飛び込んだ。纏った気流を調整することで、空気抵抗を減らし、風の推進力を得て加速したためか、ものの数秒で玄関の扉まで辿り着く。

「はぁっ……!」

 扉は重くて厚いので、蹴破るよりも、突進するように開いたほうが早かった。入ってすぐの玄関ホールには、黒いスーツを着込んだ男が二人―――拳銃を装備しているので、犯人の一味だろう。こちらを振り向いた瞬間、飛び蹴りを放って片方を沈め、それに驚いた相方もアッパーカットで倒す。

「ふぅ……」

 一応見張りは仕留めたけど、他にも何人かいるはずだ。僕は倒れている男から拳銃を奪うと、一丁はポケットに仕舞い、もう一丁を手にして、奥へと進んだ。

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