三章 ~煮えたぎる思い 爆発の前兆~
今日は、俺の機嫌がこの上なく悪かった。何せ、ここ数日あいつに邪魔されてばかりだからだ。去年もあいつに邪魔されていたが、今年は特に酷い。まず、あいつは室長なんてものに選ばれやがった。そのせいか、去年以上に俺の邪魔をしてくる。昨日の身体測定をサボろうとしたら、あいつは目ざとくそれに気づいて強引に測定させやがった。しかも、俺の身長を他の奴らが見てる前で言いやがった。俺がここ最近、一番気にしている身長を。そしてあろうことか、「僕よりあるんですね。羨ましいです」などと抜かしやがった。嫌味にも程がある。それだけでも、機嫌が悪くなるのには十分だった。だから今朝、鞄が体に当たったというだけでそいつを殴り飛ばし、その勢いで暴れまわっても、俺からしてみれば至極当然であった。だが―――
「いつもいつも、そんなに暴れて楽しいですか?」
そんな時ですら、あいつは俺の前に現れる。そして、また俺の邪魔をする。
「てめえ……ぶっ殺すぞ!」
「いきなり殺人予告される謂れはありませんから、お断りします」
断るだぁ? 馬鹿かこいつは?
「だからなぁ……今すぐ死にやがれって言ってんだよぉ!」
俺は手にした消火器をあいつに投げつける。しかし―――
「危ないですよ、まったく」
こいつはそれを、片手でキャッチしやがった。避けるでも防ぐでもなく、取りやがったんだ。
「さて、これで君の得物もなくなりましたし、大人しくしてくれると助かるんですが」
こいつは消火器を地面に置いて、またもやふざけたことを抜かす。対して俺は笑いながら、ポケットから別の「得物」を取り出す。
「生憎と、得物ならまだあるんでなぁ!」
俺はナイフの刃をあいつに向け、突き出す。この距離なら、最低でも掠り傷は負わせられる。だが―――
「ほんと、物騒なものを持ってますね」
あいつは何と、ナイフの刃を指で摘まんで止めやがった。
「ぬぉ……!」
そしてそのまま、ナイフを取り上げられてしまう。
「さてと、これで本当に丸腰ですけど、どうします?」
ナイフは地面に捨てられたが、拾うにはあいつの後ろに回るしかない。だが、俺は今まで、この距離で勝てたことがない。いや、こいつに勝てたことがない。
「どうするだぁ? 決まってんだろ」
それでも、こいつは気に食わねえ。
「素手でてめえを、ぶっ殺すんだよぉ!」
だから、拳を固めて殴りかかる。あいつはただ嘆息して、
「無理ですよ。君の腕力で僕は死にません」
俺の拳を人差し指と中指だけで止めやがったんだ。
「とりあえずそっちから殴ってきましたし、正当防衛は成立しますよね」
そして、あいつは珍しく笑ったかと思えば、
「えっ……?」
俺はいつの間にか、廊下の天井を見上げていたのだった。
◇
その後俺は教師どもに散々説教された上に、その場で一週間の停学処分を突きつけられた。ったく、あいつのせいで踏んだり蹴ったりだぜ……。
俺は一度家に帰って適当に食い物を漁り昼飯代わりに食うと、制服から私服に着替えてもう一度外へ出る。時刻は丁度、あいつらが下校する頃だ。無論行き先は、奴らのいる学校。
校門が見える場所まで来ると、物陰に隠れてあいつが出てくるまで待った。正攻法で駄目なら、闇討ちすればいい。そのつもりで辛抱強く、十分待った。だが、あいつは中々現れない。……ったく、こういう方法でむかつかせてくるとは、恐れ入ったぜこん畜生。
「ん? あれは……」
そうやって待ち伏せていたら、あいつではなく、背の高い女が校門から出てきた。あれは確か、あいつと一緒に室長をやってやがる牧野とかいう女子だ。女の癖に背が高くて、視界に入るだけでむかつく奴。いつもおどおどして目障りで、その癖図体ばかりでかいから、否応なしに目に入る。正直、あいつの次の次の次くらいに消えて欲しいと思う奴だ。
「へっ、そういうのもありだな……」
予定変更。あいつに直接よりも、周りの奴らをいたぶるほうが効果的かもしれない。一応、あいつを叩きのめすための装備は整えてきたが、試しに別の奴で使うのもいいだろう。
俺はあの女の後をこっそりつけることにした。