二章 ~新しいクラス 新しい生活~
……翌日、私は重い足取りで登校した。理由はいくつかあるけど、その筆頭は身体測定だ。今日予定されている身体測定は、否応無しに私のコンプレックスを刺激する。誰もが同じことを思うだろうけど、それでもやっぱり辛い。
「牧野さん」
そんな暗い気持ちでいると、中田君に声を掛けられた。
「これ、女子の分です。配って置いてください」
渡されたのは、身体測定の結果を書き込む用紙だ。男子と女子は測定場所が違うから、私に預けようと思ったんだろう。
「うん、分かった」
私はそれを受け取り、測定ために体操着を持って更衣室に向かう。因みに、この学校には男子更衣室が極端に少なく、それですら部活用だ。つまり男子が着替えるときは、トイレを使うか教室で着替えるかしかない。だから女子は、早めに更衣室へ行かないといけない。でないと、目の前で男子が着替えだしてしまう。
◇
測定が一通り終わり、私は制服に着替えて教室に戻っていた。困ったことに、今年も身長が伸びていた(165cm)。もしかしたら校内一かもしれないと、測定した保険の先生にも言われる始末だ。そして、当然ながら体重も増加。……もう止めよう、こんなこと考えるの。
帰り支度を済ませ、教室を出る。その途中―――
「へっ、相変わらずちっこいな」
「余計なお世話です」
廊下の反対側を、中田君と西崎君が歩いていた。
「この歳なら普通はこのくらいです」
「にしたって、俺より十センチ以上も低いじゃねえか」
「君が高すぎるんです」
どうやら、身体測定の話みたいだ。確かに中田君は背が低いけど、それは西崎君みたいに長身の子と比べるからだと思う。
「それに、僕は別に背を伸ばそうともしてませんから」
「俺も伸ばそうとはしてないぜ」
因みに私も。寧ろ縮める努力をしているけど。
「君の場合は栄養が全部身長に行っちゃうんですよ。だから頭は残念なんです」
「ぬぐぅ……反論できないのが悔しい」
もしかして、私も頭の栄養が身長に行っちゃってるのかな……? だとしたら悲しすぎる……。
「まったく、今日は本当に疲れましたよ……」
やがて二人と擦れ違い、話し声も聞こえなくなってから、私は沈んだ気持ちで学校を後にした。
◇
翌日。今日から授業が始まる。
「というわけで、号令は全部僕が引き受けます」
朝、中田君と室長の仕事について相談していた。授業の最初と最後に号令を掛けるのを、どちらが担当するか決めていたのだ。
「じゃあ、私が黒板消すね」
「よろしくお願いします」
そう言って、中田君は自分の席に戻っていった。彼は必要最低限のことしか話そうとしない。だから話が終わると、こうやって自分の席に戻ってしまう。別にそれがどうってわけじゃないんだけど……。
(ちょっと、勿体無い気がする)
中田君はちょっと舌足らずだけど、気遣いはできるし、正義感もあるから、私と違って友達が沢山できそうなのに。勿論、そうできない理由は分かっているが。
「優っ!」
西崎君が慌てた様子で、教室に入ってきた。
「川村の奴が暴れてる。止めるの手伝ってくれ」
「まったく……そういうのは、先生方に任せればいいんじゃないですか?」
「先生たちも手がつけられないんだ。消火器振り回して窓ガラス割ってるし、消火剤を辺りに撒き散らしてるから近づけないんだ」
言われてみれば、どこからともなく悲鳴や、何かが割れる音がしてくる。
「ふぅ……やれやれです」
中田君はかったるそうに腰を上げ、西崎君についていく。今までにも、こういうことは何度かあった。そしてその度に中田君が呼ばれ、川村君を止めていた。だけど―――
(何だろう、この、胸騒ぎは……?)
今回は、それだけで済まないような気がしていた。