四章 ~きっかけ つまり前触れ?~
金曜日の昼休み。私はいつも通りやることもなく、自分の席で本を読んでいた。今日はこのまま午後の授業を受けて、その後は特に何もなく(勿論室長の仕事はある)帰宅するだけ。休日の予定もなし。まったくいつも通りの日常―――の、はずだった。
「桜さ~ん」
そんな朗らかな声を出して教室に入ってきたのは、昨日会ったばかりのあやめさんだった。
「あっ、あやめさん……どうかしたの?」
「う~んとね、ちょっとお誘いに」
お誘い? 何だろう。おトイレかな?
「桜さん、明日って暇?」
「明日は土曜日だよね……特に予定はないけど」
うん、だって暇だし。だからそう答えると、あやめさんは静かに微笑んで、こう続けた。
「実は明日、みんなでお花見に行こうって話してるんだけど、良かったら桜さんもご一緒しない?」
……まさかのお誘い。っていうか、遊びに誘われたこと自体が初めてだったりする。ほんとはおトイレもなかったり。
「あ、因みに「みんな」っていうのは、優と、西崎君と、優の弟妹ね」
弟妹? 中田君って兄弟がいるんだ。初耳だったと思う。
「優が特製のお弁当を作るって言ってるし、きっと楽しいと思うよ」
そうやって、屈託のない笑顔で誘ってくるあやめさん。こうなると、ちょっと断りづらい……。
「え、えっと……」
と言っても、断るような理由はないんだけど。それでも、今まで友達すらいなかった私には、休日の催し物に参加するのはハードルが高すぎる。
「ほ、ほら、身内のイベントなんだから、部外者なんかがいると気まずくないかな……?」
「身内っていっても、殆ど学校での面子だけだよ?」
まあ、確かにそうだけど。ちょっと追加メンバーいるけど、基本学校で顔を合わせる人だけど。でも、あやめさんって出会ってからそんなに経ってないよね……?
「あ、もしかして、何か都合が悪かったの……?」
「そ、そんなことない、けど……」
とはいえ、そんな悲しそうな顔をされると、とてつもない罪悪感を覚えてしまう……。
「私、そういうの、慣れてないから……」
だから、断るのにも心が痛んでしまう。けどそれとは対照に、あやめさんは何故か笑顔になった。
「な~んだ、そんなことだったんだ」
そういうと、私の手を取って、とっても慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべるあやめさん。……止めて、却って心が痛いから。
「大丈夫、優の弟妹ちゃんは優しくていい子たちだから。絶対に仲良くなれるよ」
……えっと、私、どう反応すればいいの? 教えて神様、或いは仏様。
「だから、桜さんもちゃんとリア充になれる。私が保証する」
言いながら、私の手を優しく握るあやめさん。……もしかして、陰気な引き篭もり予備軍って思われてるのかな、私? まあ、確かに似たようなものだけど……。
「じゃあ明日、九時に中央公園でね」
そう言い残すと、手を振りながら教室を出て行くあやめさん。―――どうやらもう、確定事項みたいです。やっぱりあやめさん、ちょっと苦手だな……。