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序章 ~初の友達? 二回目の部活~

 私、牧野桜は中学二年生。人と接するのが苦手で、今まで友達なんていませんでしたが、この春、ようやく友達と呼べそうな人が出来ました。「呼べそう」というのは―――

「えっと、中田、君?」

「何です?」

 友達と呼んでいいのか、分からないからです。ほら、話しかけても無表情。なんだか「話しかけないでオーラ」でも纏っていそうな人。私と同じ室長、中田優。一応男子。「一応」なのは、彼がとても女の子みたいな容姿であることと、それからもう一つ。

「えっと……普段は名字で呼んだほうがいいかなって」

 そう、普段は。というか、今の彼にはそのほうがいいと思った。

「ええ、そうしてくだされば幸いです。「彼女」はあまり好かないでしょうけど」

 実は彼、多重人格なんです。今は男の子みたいだけど、たまに女の子が出てくるんです。その「女の子のほう」には、名前で呼ぶように言われているんです。だから、「彼」は名字のほうがいいのか、或いは名前なのか、訊いていたのです。って、誰に説明してるんだろうか、私。

「それだけなら、もういいですか?」

「う、うん、それだけ」

「そうですか」

 中田君はそう言って、どこかへ行ってしまった。そう、今の「彼」は、とても冷たいのだ。話しかけても必要な会話しかしない。だから、友達みたく気軽に話せないのだ。……プライベートなこと訊くと答えてくれないし。私って、嫌われてるのかな?

「よっ」

「ひゃわっ!」

 突然肩を叩かれ、思わず飛び上がってしまう。後ろを振り返れば、そこには苦笑している西崎君が。

「驚き過ぎだっての」

 西崎君は中田君の親友で、いつも(というわけではないけど大概)一緒にいる。そんな彼が、私に用だろうか?

「えっと、何……?」

「いや別に。ちょっと挨拶しただけ」

 ただの挨拶に飛び上がったのか私は……。そう思うと、何だか恥ずかしくなってくる。

「まさかここまで驚かれるとは思ってなかったけど……面白かったからよしとするか」

 よしとしないで欲しい。というか、出来れば今すぐ忘れて欲しい。

「んじゃ、またな」

 なんて考えている間に、西崎君はどこかへ行ってしまった。……もういいや、さっさと席に着こう。



 昼食の時間になった。この学校は、お弁当を食べるときに机を合わせるという小学生みたいな決まりがある。だけど私にはこれが辛い。だって―――

「午後の数学、小テストがあるみたいよ」

「えー? やっばーい!」

「今日の弁当、肉が少ねーな」

「こっちもだー」

 会話に入れないんだもん……。っていうか、話す人がいない。因みに、中田君は隣の集まりにいる。別に、隣の集団の子と話す人はいる。でも私と中田君は、そこまでして話す仲じゃない。

 結局、周囲の会話を聞きながら、一人黙々とお弁当を平らげた。



 放課後は特にすることもなく、真っ直ぐ帰宅する。だけど、今日は違った。

「牧野さん」

 中田君に呼び止められた。

「牧野さんって、確か文芸部所属ですよね」

「う、うん、そうだけど……」

 どこかの部に入れと言われたから何となく入っただけで、幽霊部員状態だ。

「部長の森さんが、今日は絶対顔を出せと仰ってました」

「……私、まともに出たことないんだけど」

「僕もです」

 確か、出たのは去年の四月に一回だけのはず。それなのに、また出ないといけないのか……。

「昨日森さんに会ったときに、うっかりあなたと同じクラスだと漏らしてしまいました。すいません」

「き、気に病まなくていいよ」

 寧ろ、サボってたこっちが悪いわけだし。

「まあ、都合が合わなければサボっていいですよ。こっちで言い訳しておきます」

「そんな、悪いよ」

 そこまで手間を取らせるわけにはいかない。重ねて言うけど、悪いのはサボってた私だ。それなのに、中田君に負担を掛けたくない。そう伝えると、中田君は頷いて、

「そうですか。では、行きましょう」

 そう言う彼の後を追って、私は一年振りの部活へ向かうのだった。



 数分も経たない内に、私たちは図書室に辿り着いた。図書室は文芸部の活動場所だ。

 それにしても、人生二回目の部活動だからか、少し緊張する……。うぅ、足が竦みそうだよぉ~……。

「こんにちは」

 だけど中田君は、私のことなどまったく構わず図書室の戸を開ける。待って、まだ心の準備が―――

「やっほー!」

 と思った途端、図書室から誰かが飛び出してきた。

「おっと」

 そしたら中田君が横に飛んでそれを避けて、結果、その人が私に直撃した。

「きゃっ!」

「おわーん!」

 その人に押し倒される形で、私は床に倒れ込んだ。

「うぅ~、避けるなんて酷ーい!」

「大丈夫ですか牧野さん?」

「私の心配は!?」

 私の胸の辺りで騒いでいるのは見知らぬ女子生徒だった。誰だろうか?

「うん、大丈夫」

 とりあえず、中田君にはちゃんと返答しておいた。すると中田君は、倒れ込んでいる女子生徒の首根っこを掴んだ。

「ひゃあっ! はーなーせー!」

 女子生徒が中田君に(文字通り)吊るし上げられ、ジタバタと暴れまわっている。……ていうか、中田君、どういう腕力してるんだろう? 軽いとはいえ(圧し掛かられたので分かる)、人を一人、片手で軽々と持ち上げるなんて。

「ほら、とっとと起きてください」

「う、うん……」

 言われて、とりあえず起き上がりつつも、何か違和感を覚えた。何だろう……?

「こーらー! はーなーせーってばー! はーなー……はぅ!」

 何の前触れもなく手を離されて、女子生徒が床に倒れ込む。中田君、容赦ない……。

「何で離すのー!?」

「離せと仰ったので」

「だからって無言で離さないでよー!」

「ぎゃーぎゃー騒がないでください。ほら、さっさと部屋に戻る」

 何だかんだで、五分くらいこの騒動は続いたのだった。

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