九章 ~大切な仲間 そして今とこれから~
「彼女」から体の主導権を返してもらった「僕」は、さっさと帰宅することにした。
「よう、優」
昇降口で靴を履き替えていたら、西崎君が後ろからやって来た。
「今から帰るとこ?」
「そうでないなら、君には僕が何をしているように見えるんですか?」
それもそうか、と彼は答え、僕と並んで歩き出した。
「でさ、何話してたの?」
「それこそ何の話です?」
彼の意図を知りながら、敢えて質問で返す。すると、西崎君は笑いながら答えた。
「お前と一緒に室長やってる子―――牧野ちゃんだっけ? あの子と家庭科室で何を話してたのさ?」
「「僕ら」の件で少々」
僕の返答に、西崎君は目を丸くした。まあ、彼らにとっては当然の反応だろう。
「お前が、昨日今日知り合った相手に、「あれ」を話したのか?」
彼も「僕ら」の事情を知っている。牧野さんに話したよりも、もっと沢山のことを。
「止むを得ず、簡単に伝えました。別に昨日今日会った訳ではありませんし。もっとも、直接伝えたのは「僕」ではありませんが」
直接伝えたのは「彼女」。「僕ら」の一人だ。
「それって、川村の野郎が欠席だったのと関係あるのか?」
言い忘れていたけど、あいつは学校を休んだ。理由は、言わずもがな。
「まあ、その解釈であってます」
とりあえず、あいつのことは忘れたかった。もうあいつは当面大人しいだろう。「彼女」のお陰で。
「牧野さんは、秘密をみだりに言いふらすようには見えませんでした。それにそもそも、話したことの半分も飲み込めていない節すらあります。安心しても大丈夫だと思いますよ」
「お前が言うならそうなんだろうけどな……」
西崎君が言わんとしていることは、分かる。別に、他人の考えが読める力によって、ではなく、単に長い付き合いだからだ。
「何です? 心配してくれてるんですか?」
「当たり前だ。……幼馴染だからな」
「……そうでしたね」
僕は、自分が他人と違っていても、何も不安に思わない。だけれども、この国では、人と違うことが、まるで悪であるかのように扱われるときがある。「出る杭は打たれる」という諺通りだ。だけど、僕には友がいる。僕が出っ張ったら、一緒に出っ張って並ぼうとしてくれる。叩かれるときは、一緒に叩かれてくれる。そんな仲間が。
「出来ることなら……彼女とも、仲良くしたいです」
そんな彼らのために、出来ることがあるとすれば。
「何だよ、惚れたか?」
「すぐにそうやって恋愛感情に結びつけるのは、君のよくない所です」
彼らとの時間が、少しでも楽しければと、僕は思った。