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紺碧の死神  作者: 零光
4/14

4:理解、把握、不安

学校が終わった後は家に帰るのみ。


高校生活は部活をやっているほうが楽しめる。

そんな思いは俺にもあるんだが,なんせ運動音痴な俺は無所属。

逃げているだけだけどな。

文芸部ってタイプじゃないしね。

ちなみに純はサッカー,ヒロは何食わぬ顔で予備校。

恵美は……まぁ女子と帰るだろ。

で俺はいつも一人旅気分を味わっていた。

今までは,な。

今はとても家が近い,というか家が同じ同級生がいるのだから。

松野 ルゥ。本名はもっともっと長かった気がするが。

苗字も同じで下手すると双子とか言われる可能性も否定できないが,彼女は死神。

俺を聖人とか言う天使もどきから守るためにここにいるのだと言う。

で,その彼女も明るい性格が幸いし友達はすぐに出来たのだが,帰る方向は全くの逆方向。

つまり残る相手は俺だけであって。


「じゃ,帰ろ〜」


そう言って横に立っている少女は死神だと言うことを忘れさせるくらい可愛く,そんな子と一緒に帰る俺は妬みの的になっているかもしれないがそんなの知らん。

俺の家の方角は純,ヒロ,恵美以外に数人しか住んでいないので帰り道で同じ学年はおろか同じ制服を着た生徒ですら極まれにしか見ない。


「さっきは焦ったよ。分かってはいたけど学校でもあいつらは襲ってくるんだな」


空間全体に紫のフィルターが貼られたような空間はお世辞にも居心地がいいとはいえない。

もしルゥがいなかったら今頃はあっちの世界だ。


「場所は選びませんから。気配を感じられるのも相手が敵意を表してからなので急なんです」


いつでも敵意むき出しってわけでもないのか。

うちの近所の猫は俺に対して24時間敵意むき出しな奴だけど。


「下級兵はそこまで思考が発達していないから分かりやすいんですけど上級まで来ると実際に現れてからじゃないと分からないこともあります」


いい予感がしないな。

俺は見慣れた通学路の景色を見ながらさっきの様子を思い浮かべた。

あの聖人は下級らしいけど,上級になるとそれだけ強くなるってことなんだろう。


「私も鍛錬はたっくさん積んでます」


そう笑顔で言ってくれる味方が可愛く、頼もしすぎて緊張も少ないが。


「それで上層部からの連絡内容ですが」


そこまで言って彼女は俯いてしまった。

そんなにマズイ内容だったのだろうか?


「聖人はゆうくんの容量を使って神を作り出そうとしています」


思い切ったような顔をして俺の顔を見ながら放ったその言葉はこんな状況じゃなかったら笑える話だ。

俺を使って神を作る?

というか聖人って存在が天使,イコール神ってもんじゃないのか?


「どちらかと言うと二アリーイコールと言った感じです。聖人は神のようで神じゃない。その定理から行くと私も神って呼んでもらってもいいはずですよ」


実はあまり理解してないが,つい なるほど と口から出てしまった。二アリーイコールって何だ?


「ゆうくんを使って作ろうとしているのは圧縮されていない神,私たちはユグドラと呼んでいます」


俺を使って神が出来るってか。

容量が多いって言うのは聞いていたけど,しっくりこないな。


「私も驚きました。まさか聖人がそこまでしようとしているなんて」


それほどに神って言うのは凄いんですか?いや,そりゃ神なんだし凄くないはずもないんだろうけどさ。


「神が聖人側についてしまうと私たち死神側は一瞬で壊滅しますね。ゆうくんは私が守りますけど」


確かに死神界でも名が知れた紺碧のルゥが守ってくれるというんだから安心できそうだ。

今までの戦闘でも危なげなシーンは見てないし。

そうそう,俺には疑問に思っていることがあった。


「俺の容量が多いのは分かりましたけど,それって他の人間を複数人捕まえて容量をその聖人とやらのサーバに集めても同じことなんじゃないでしょうか? 」


すると彼女は紺色の髪をさらりと撫で,口元を少し動かしながら


「確かにそうなんですけどそれだと駄目なんです。その方法だと容量の隙間が出来てしまって神を作り出すことが出来ないんだと上層部の人は判断しています。事実聖人側も他の人へは今のところ動きを見せていない」


確かに無防備な人なんていくらでもいるのにな。


「ところがゆうくんの持つ容量は神を作り出すのには十分な容量を持っているんです。つまり隙間も無い完璧な記憶媒体,それが松野 雄二。あなたなんです」


俺ってそこまで凄いのか。

少し自身が持てた。

何の自身か知らないが。


「その代わりいつ聖人側が他の人間を狙うかも分からないんです。サーバの維持には容量は必要ですし,私たちの世界では容量は必需品のような物なので」


容量,ルゥから見ればクラスの皆も容量として扱っているのだろうか。

そんなことがふと頭をよぎる。

俺の中ではまだまだ質問が山積みだ。


「えっと,死神の世界のほうは大丈夫なの? ほら,容量。聖人側はなんか足りないみたいだけど」


聖人側が人間から容量を集めているんなら死神側も集めているんじゃないか。


「んっと,私たちは人間狩りをするんじゃなくて死んだ人間から容量を貰ってるの。酷い言い方だけど,こっちで人が死ねば死ぬほど死神界では容量が増えていい生活が出来る」


なるほど。エネルギーの循環って感じか。

でも少し意外だな。

死神なんて名前がついてるんだからこれこそ人間を捕まえてるんじゃないかと思ったが。


「本当は聖人側もそうしなきゃいけないの。生きている人間を無理矢理変換して自分たちのために使うのは良くない。そういう対立から始まったのが今回の戦争で,あと19日以内で死神側が勝つ。そう予想は出てるけど……」


そこでルゥの足が止まり,考え込むような顔をしていた。

ちょうど交差点の信号も赤に変わり俺も足を止める。

目の前を走る車の騒音にかき消されそうな小さな声でルゥは続けた。


「少し不安。聖人側はもう崖っぷち,人間界に全精力を向けて容量を取りに来てもおかしくないのに標的は今のところゆうくんだけ。何か作戦があるんじゃ……」


目の前にいるルゥは鎌を持ち,翼の生えている死神状態のルゥじゃなく普通の女子高生のようで,今にも泣き出しそうな顔をしていた。

こういう場合はどうすればいいのか,経験も無いから何とも言えないが黙っているわけにもいかず。


「ルゥが不安なんじゃ俺はもっと不安なんだし,頑張ろうぜ」


自分で言っておいて何だがこの状況にしてはよく思いついたぞ。俺。


「ん,そうだね。頑張るぞ〜! 」


何かうまくいったようだ。

まぁ,ここまでの内容をまとめてみると,俺は普通の人より容量とか言う物が多いらしい。

それで聖人とか言われてる悪者が俺を狙っていてルゥは俺を守るためにやってきた死神。

俺を狙っている理由は神を作り出すことで,俺以外の人を何人も捕まえるのじゃ駄目。

神が作られるとまずい。

んでもって,ルゥの不安点は聖人が俺以外の人を狙わないのはなぜか。

そういう事か。

ふぅ,頭が痛くなりそうだなこりゃ。


「私の話分かったかな? 」


俺がうんうん言って悩んでいたので心配された。

俺にしては随分と理解したほうさ。

このぐらいの理解力が勉学にも活用されてほしい物だが。


「じゃあ任務終了の来月までゆうくんはしっかりお守りします! 」


一ヵ月後か。

それまでに何も無きゃこの上なく楽なのにな。


通学路を歩き終え,俺の家についたころ


「そういえば本当にお部屋に居座っちゃっていいんですか? 」


ルゥは少し不安げな表情をしていたが,親にばれなきゃ別に問題ないという事を伝えるとルゥは礼儀正しくお辞儀した。

一体どんな教育を受けてきたのやら。

そういや


「今日授業とかたまたまって言ってたけど,こっちの世界のこととか色々よく知ってるよね。やっぱ勉強してる? 」


「死神界も似たような物なんですよ。殺伐とした風景が思い浮かぶかもしれませんが,家はありますし,水道やガスもあります。ただそれを動かすのに必要なのが容量で,さっきも説明したとおり死んだ人間からいただいています。その変わり死んだ死神は雨になっているんですよ」


まじか。


「マジです。へへ」


微笑んでいるルゥを連れて部屋に入るとそこには殺伐とした俺の空間。

下手すると死神界より汚かったりしてな。


「私このベッド好きです〜……ふにゃ〜」


ばすんとベッドに倒れこんだルゥは猫のようにベッドの上を転がっている。

そんなにいいもんか。俺の愛用ベッドは。


「あ,でもこっちの世界でも分からないことはたくさんあるんですよ。例えばパソコンは無いし,他にも人間独特の行事とかは全く」


なるほどね。


「でも色々とクラスの皆に教えてもらったんですよ。例えば,手の繋ぎ方とか……」


って,何教わってんだっ!?

あのクラスの女子は何考えてんだか全く。


「でもむやみにつないじゃ駄目なんだって言われました。う〜ん,奥が深いですね」


深くない深くない。


その後はルゥはベッドの上,俺は床で寝ることにした。

夕食はルゥをおいて俺だけが下に行き,何か手ごろな食料を持ってルゥに渡す。

親には夜食だと言ってね。

この前のようなヘマをしないように部屋には鍵をかけておいた。

ここで親が入ってきたらさすがに言い訳できないさ。

しっかし高校生でこんな偽同棲生活になるとは思わなかったな。


ルゥは疲れたのかすぐに寝てしまった。

今夜はあの聖人とかいうのに起こされませんように。

そんな事を思いながら俺も眠りについた。

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