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紺碧の死神  作者: 零光
3/14

3:舞い降りた聖人

目覚ましの音で目が覚める。

布団の中は暖かく,出たくないという衝動に駆られるがそこを耐えなければ寝坊だ。抱き枕なんかに……


抱き枕?

うっすらと目を開けて見るとそこには見たことのある小柄な体、紺色の髪の少女が横たわっていた。

その姿は今まで見てきた少女をより一層輝かしく見せ、その細くて白い腕が俺の服を優しくつかんでいた。


「ふぇぇあぁぁぁぉ? 」


何か奇怪な声を上げてしまったが親はもう働きに出ているので安心だ。

いや,安心じゃないな。


「ん〜……あ,おはようございま……すっ? 」


起きた。

目をこすりながら俺を見ている。

これで鳥だったら刷り込みとやらが発生しているのか。

じゃなくて。


「えっ? えぇ? 嘘? 」


慌てているが,俺も十分焦ったぞ。

昨日確か出て行ったはず。


「あっ,そういえば昨日公園に行ったんだけどおじさん達がいっぱいいたからベランダだけでも借りようかなと思ってベランダまで来たんだけどゆうくんの寝顔があまりにも気持ちよさそうで……」


それで入ってきたってか。

なら最初からいてくれてもいいのに。俺は下に寝るし。


「でも悪いですよ〜。あ,それに制服置いて行っちゃったんですけどね」


そう言うとルゥはベッドの下に潜り込み制服を持って出てきた。

そういえば昨日そのままだっけ。

あれ?


「そういえば何か食べてる? 昨日もお金ないって言ってたから何も買ってないんじゃ? 」


そう言った時にタイミングよくルゥのお腹から音がした。

うん。食べてないな。




「むぐむぐ……これおいしい! わぁ! 」


リビングに置いてあったパンをおいしそうに食べているルゥは驚くような食欲を見せていた。

そんなにお腹すいてたのか。というか死神でも腹は減るのか。


「さてと,そろそろ学校行かなきゃ遅刻するし行こうか」


ルゥが食べ終わり着替えている間に俺は朝の一連の行動を終え制服に着替えた。

今日から授業が始まるっていうのが憎らしい。


登校中に女子と二人で歩くというのはなかなか無い機会で周りから見れば俺たちも立派なあれなんだろうか。


「やっぱり飛んじゃ駄目ですよね〜」


ルゥは苦笑いしながらそんなことを言ってるが,そりゃ見つかったら大変だろ。

新聞の記事も大いに賑わうぞ。


教室に入るとき同じタイミングではいると何か言われる可能性があるという配慮から俺たちはタイミングをずらして教室に入った。

先にルゥ,後で俺が。


「おっす,雄二〜。今日からまた学校だなぁ」


純が苦笑いしながら話しかけてきた。

ちなみに昨日も学校だ。


「なぁなぁあのルゥって子さぁ,ハーフだよな? あんなに可愛いんだもんな」


ヒロが俺の背後にいた。

教室の中でこいつの気配はどうにも感じにくい。

ついでに言うとルゥは死神だ。ハーフかもしれないが。

そんなことを思っている間ルゥはクラスの女子と仲良く話している。

確かにこう見ると普通の高校生だよな。

ハーフと言えばこのクラスには正真正銘ハーフがいた。

ポーラ・ゆい

病弱で休みがち。が,か弱いイメージと裏腹に成績優秀,スポーツ万能な優等生。

一体どこで勉強してんだか。


「よっ! 昨日からなぁんか浮かない顔だねぇ〜元気だしなよっ! そりゃ勉強は私も嫌だけどさ」


背中に重い鉛球のような平手打ちを喰らい,これもいつもの事だなぁと感じた。

もちろんこんな事をしてくるのもクラスに一人。


恵美めぐみは元気ありすぎて余ってるよな。少し分けろ。俺に」


いつでも元気が取り柄の小林 恵美は明るく誰とでも仲良くできるタイプで,クラス内でも人気がある。

まぁ平手打ちの威力もそれ相応な物だ。


「雄二は時たま自分の世界に入り込んでぼーっとしてるからな。何考えてんだか」


お前だってぼーっとしてる時はするだろ。

人間誰しもぼーっとする時間は必要なんだ。多分。


「おっと,次英語じゃん。さ,準備準備〜」


恵美がそういうと同時に時間割を見た。

英語?

月曜の一時間目って古典じゃ?

その時俺は気がついた。3年になったんだから時間割りだって変わると言う事を。


英語と言う物は俺の中でワースト3にはいる教科だ。

俺は日本人だ。日本語が話せりゃそれでいい。

……そんな考えが甘いんだろうな。


「じゃぁここ松野! 」


しまった。不意打ちだ。

どこだよ。どこ。

ん? どっちの松野だ?


「お? なんだ転校生も松野か。じゃあせっかくだし,ルゥさんに読んでもらおうかな。12ページの2段落目」


俺のときもページを教えろ。

……そういえばルゥって勉強できるのか?

年は同じって言ってたけど死神の世界に学校は?

しかしその答えはすぐに出ることになる。


「これは英語ですよね? えっと……Do you live in a house or ……」


俺の後ろで教科書の文章を読んでいるその少女はまるで外人のような発音で文を読み上げている。

はっきり言うが先生より発音はいいし,声もきれいだ。


そんな存在感を見せたルゥはその後も国語,数学,物理と昼休みまでの授業全てを完璧に済ました。

おいおい。死神ってのは頭もいいのか。

とりあえず後ろにいる本人に聞くのが一番早いんだが。


「全部完璧じゃん」


「そんなこと無いよ。たまたま」


たまたまでそこまで出来るんだったら俺にもそのたまたまの神が舞い降りて欲しい物だ。

俺は今日の授業全て大敗さ。


結局放課後までの残り2教科も完璧にこなしまさにパーフェクトぶりをクラスに大胆アピールしたルゥの株は急上昇。

勉強教えてだのと言った理由でルゥの周りには小さな人だかりが出来ていた。

これでルゥが死神だなんて知ったらどんな反応するんだろうな。


「来る」


突然ルゥがそう言うとクラス内は一瞬にして紫色のフィルターがかかったような色になり,純もヒロも恵美もみんな消えていた。

残っているのは俺とルゥだけ。


「って,おい。いきなりかよ」


そうは言っても相手は待ってくれないってか。


「相手はどうせ下級兵だよ。大丈夫」


こんな小柄な女の子に守られているのも何か落ち着かないが今はそれどころじゃない。

教室の蛍光灯が割れる音がして俺は地面に伏せた。

窓の外は一面紫で何も見えない。

と,言うよりも何も無い。

ガラスそのものが紫に塗られたような空間。

そして上を見ると蛍光灯があった天井には4メートルくらいの穴が開きそこから天使が降りて来た。

でもこの前とは違う。

やさしそうな顔などせずにその顔はまるで悪魔の申し子。

これが聖人……。


「たぁっ! 」


見るとそこにはブレスレットから鎌を取り出し,翼の生えたルゥがいた。

その姿は改めてみるとコスプレでもなんでもない本物の死神を思わせるようだった。

ルゥの紺色の髪が風になびき,聖人へとその鎌を向け飛んでいく。

その細い腕に握られている鎌が突如音を立てる。

鎌の描く円形の閃光が聖人の体を貫き,黄色い粒が落ちてきた。

そこに響いたのは聖人の喚き声と鎌が放った空気を切る音。

ほんの一瞬だった。


「はい,おしまい。大丈夫? 」


軽そうな音をたて足を地面へ着けたルゥは先ほどまでの戦闘が無かったかのように涼しい顔をしている。

凄く可愛いのだろうが今はそんな事に気を向けていられるような状況じゃない。


「凄いな,一撃……かよ」


教室の天井に先ほどのような穴は無く,机と机の間に聖人が一体斬られて転がっている。

血が出てるわけでもなく元からそのような形だったかのように。


「私これでも死神界では伝説の血を受け継ぎし紺碧こんぺきのルゥって呼ばれるくらい凄いんですよ? あっちではルゥとも紺碧とも呼ばれます」


なるほど。

つまり今回の件はその紺碧が動くくらい重要なことだってことか。


「はい。上層部からゆうくんは何が何でも守れといわれていますので」


守られるのは嬉しいが,あんな聖人が襲ってくるたびに俺は地面に伏せていなきゃいけないのか。

いっそ戦うか? いや,止めとこう。多分足手まといだ。


「大丈夫ですよ,私が全力で守ります」


全力でお願いします。


「じゃあ元の空間に帰りますね。あ,上層部から報告も来たのでまた後でお話します〜」


そう言うとルゥは鎌をブレスレットにしまい,床に人差し指を当てるとどこかでガラスの割れるような音がして俺はクラスに戻った。

ルゥは何事も無かったかのようにさっきまでと同じ場所で話しているし,俺も知らぬうちに椅子に座っている。


「こいつらは何も知らないし見てないのか」


純もヒロも恵美も,クラスの皆が今の状況を見ていない。

そりゃ皆いなかったんだが,消えている間時間が止まってたってでも言うのか?

はぁ,頭がついていかねぇ。


「さっきから何一人で呟いてるんだか」


純とヒロに心配されるが,それどころじゃない。

俺はお前らより容量が多いんだぜ。

なんて間違えてでも言ってしまったら俺は保健室あるいは病院に連れて行かれる恐れがある。

参った参った。


「早く普通の生活に戻りてぇ」


ぽつりと口から出た小言には誰一人反応しなかった。


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