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紺碧の死神  作者: 零光
11/14

11:死神の世界

「そういえば月光の交差点ってどこだ? 」


俺は今ルゥに手を引かれ聖人側の本拠地に向かおうとしている。

アレストに指示された場所は月光の交差点。

しかしそんな交差点は知らないし。

俺が進んでいるのも見た感じいつもの通学路。


「はい,ここです」


たどり着いたのはいつも通っている交差点。

ここって月光の交差点なんて名前無かったような?


「ここがちょうど死神界との共通点になっているんです。ここが死神界への入り口」


そう言って立ち止まったのはいつも通っている信号の下。

信号は赤へと変わり車が目の前を通っている。

って事は俺はいつも入り口を歩いていたって事じゃ?


「ここは死神が開こうとしない限り開きませんよ。万が一迷い込んできてもすぐに誘導係が元の世界に戻します。記憶を少し操作してね」


記憶の操作なんて出来るのか。

死神は魔法使いなんじゃないのか? 実は。


「魔法とまではいきませんけどね。じゃぁ、行きますか」


俺の手を握るルゥの手に力がこもる。

すると辺りは一瞬にして色を失ったように灰色の世界。

灰色のビル,信号,車。

そして,空。

この中で色があるのは俺たちだけだった。


「…………」


ルゥはただ黙って目を瞑っている。

俺の手を握るルゥの手の力が一層強くなる。

女子とは思えない握力だなしかし。正直少し痛い。


「えっ!?」


俺が発したその言葉は自分の目の前の光景に対して。

今まで灰色だった世界が一瞬で色を取り戻した。

建物などの構造を全て変えて。


「着きましたよ。ここが私たちの世界です」


俺の目の前にある景色は想像していた物とはかけ離れていて,目の前には花壇。

近くには筒状の建物が建っていて先ほどと同じように交差点がある。

交差点以外は共通点がない。


「この交差点の名前が月光の交差点。死神界と人間界のゲートです。もう何年も、何百年も前から」


と,俺の前に炎の塊が現れてそこから人影が見えた。

その炎の塊は徐々に形を変え,やがて一人の人間,いや死神になった。


「来たか。死神界が珍しく思えるのも分かるが,時間がない。もう準備は良いか? 」


そこにいた地獄の業火、アレストは真っ赤なコートを羽織り,腕には何重にもベルトが巻かれていた。

そして目の色も今までより赤く見えた。


「はぁい。アレストも本気で行くんですね。こりゃ大変だっと」


相変わらず自分のボスに対して気楽に話すルゥも一気に翼を生やし真黒のマントを羽織った。

この二人が死神界のトップ2。

そして俺は容量が多いとか言う理由で連れてこられた一般人。

さぁ,今俺の立場と変わりたいものはおらんか? 変わってやるぞ。今すぐに。


「ほらほら,ゆうくんも行きますよ」


と,しゃがんだルゥは俺の足と肩に手をまわし,持ち上げた。俺を。


「それぇっ!! 」


そう言うとルゥとアレストが飛んだ。

俺?

俺は何故かお姫様抱っこの状態で運んでもらってます。

なんか周りから見たら格好悪いな。

女の子に輸送されてます。


「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫ですよ。落としたりは間違わない限りしませんから」


今不安になりました。

すでに上空50メートルはあるよな? これ?

落とされたら死にますよ。


「その時は我が拾ってやる」


と横にいるアレストが……って。

俺はアレストの姿に驚いた。

ルゥは漆黒の翼を羽ばたかせて飛んでいる。

それなのにアレストは翼なんか出ていない。

ただその身一つで飛んでいるのだ。


「アレストは熱を発してその上昇気流がどうのとか言う難しい原理で飛んでいるみたいですよ。いいなぁ」


ルゥはにこやかに言っているが,それってすごい事だよな。

あと,予想外に顔が近い。

ルゥの顔は近くで見ると余計に……いかんいかん。

これじゃあヒロと同等だ。


「お前には翼があるじゃないか。我とて望んだ形ではない。それと,我らの部隊は聖人側の本拠地付近の聖人を倒しに先に向かった。この調子だと我らが着く頃には外の雑魚はかたずいているだろう。こちら側にはシャルを派遣してある」


シャベル?


「違いますよっ。シャルは死神側の3番手,毒手……だったかな? 」


毒手って……。

俺の頭の中に何故か気持ち悪いイメージの人物像が浮かんだ。


「独修のシャルだ。いい加減味方の呼び名ぐらいは覚えたらどうかな? 紺碧」


あっ,そうだったとルゥは軽く苦笑い。

俺はお姫様抱っこ状態継続中。

重くない物かねぇ?


「全然軽いですよ。片手でも持てますよ」


確かにあの鎌を軽々振り回してたし。


と,目の前には大きな大きな城が見えた。

真っ白で綺麗な城で,天使がいてもおかしくないと思えるほどの見栄え。

それなのに庭は赤く,血で汚れていた。

何人も,何百人もの……死体?

これって死んでるのかよ?


「酷い……」


ルゥの呟きが先かアレストの声が先か,俺たちは地面に足をつけた。


「シャル! どうした!? 」


そこにいたのは20歳くらいの若い青年。

銀色の髪は血で汚れ,服のあちこちが切れていた。


「緑陰が一人でやっちまった。……あいつ一人で俺らの部隊は壊滅だ。相手側の部隊もいなくはなったが……っ」


緑陰。

この前来た緑髪ヤローだ。

ルゥの,友達。


「リク……緑陰一人でなんて……」


「つまり残っているのは我らと緑陰,天光のみか」


アレストはそう言いながらシャルと言う人にこう告げた。


「残りは我らが片付ける。お前は万が一のために死神界での警戒を」


その間ルゥの顔は深刻で,聖人側のナンバー2とはいえかつての友達が起こした自体を飲み込めずにいる様子だ。

俺は目の前に立つ城の前に張られている結界と言うのにふさわしい文字列を見ながら立ち尽くしていた。

今まで見たこともないような文字がドーム状に城を覆っていて,そこの境界線より向こう側には血の跡はない。


「カップ,お前は自分の容量を自分で使うことは出来るのか? 」


使うって物を収納したり出したりだろ?

俺の中に鎌が入ってたのお前も見たろ?


「自分で使えるのかと言うことだ。使えるならあの結界を自分の中に取り込め。それによって生じる歪みをこじ開けて我と紺碧は中に入る。お前や聖人はこの結界の影響は受けないので自由に出入りできるが」


やってみっか。

えっとしまいたいものを左手で持って……持つ?


「触ればいいんですよ。頑張って……下さい」


ルゥは祈るようにこちらを見ている。

辺りの光景は人間界と変わらない様に見えるのに,その辺に転がっているのは羽が生えている人間。死神と聖人の区別はつかないが。

恵美はこの城の中に。迷惑かけやがって。


そんなことを思いながらもその結界に恐る恐る手を触れてみた。

何とも無い。

そのまま手がすり抜けて向こう側へと行ってしまった。

この状態でいいのか?

右手を胸に当てて,軽く舌を噛むっと。


その瞬間に俺の体の中に何か暖かい物が流れ込んでくるような感触がした。

全身にそれが広がっていくような気がする。


「ヴァルキニア」


アレストの声で我に返ると俺の横の結界が砕けて地面に落ちた。

落ちた結界はガラスのように割れ,そのまま地面へと溶けていってしまった。

そして,その場所に出来た穴を通って二人が中に入る。

続くように俺も中へ。

俺が中に入ったときにはその結界は全て消えていた。


「ゆうくんすごい! 転送速度も抜群ですね! 」


そう言って飛びついてきたルゥは本当に心の底から喜んでいるような顔で,抱きしめたくなった。

理性が止めたが。


「そういう行為は帰ってからやれ」


アレストは俺たちのほうを見もせずに城の城門に手を当てていた。

そのまま数秒。


「灼熱のフランシス,ノークアンヘルファイズ! 」


その言葉をスイッチとしたように城門が爆発した。

熱風が辺りの物を吹っ飛ばす。

俺はルゥが俺の前に立っていてくれたおかげで何ともなかったが。

煙が舞い上がり,視界が一時的に麻痺する。

しかしその煙も突風によって払われた。

視界が戻ったとき目の前にルゥの姿はなく,俺の上空でルゥは羽を羽ばたかせたようだ。

今の突風はルゥがおこしたものだろう。


「相変わらずすごい破壊力ですねぇ。アレストは」


「紺碧もやっと本気を出したか」


とりあえず俺をはさんで立っているこの二人は化け物です。

分かってはいたけどさ。

そして煙がなくなって分かったがアレストが破壊したのは城門ではなく自分の前の物全て。

そう言えば分かりやすいだろうか?

城にはくっきりと大きな穴が開いていてそこから城の向こう側の景色が見えた。

どんな技だよ。


「アレストは武器を持たなくても熱を外に放出して使えるんです。そのせいで私も勝てなくって。武器を持ったら鬼です。ほんと」


死神ナンバー1はだてじゃないと。

俺もブートストーンとやらで少しは力が出せるみたいだけど,こんな爆発は起こせないぞ。十中八九。


「ここにいるのは緑陰と天光のみだ。一対一でやっても互角だろうが,相手側には未完成とはいえ神がいる。油断はするなよ」


「分かってますって。ボスっ」


俺は何をするべきか。

結界を破ったら俺の役目ってないんじゃ?


「お前はカップの人質を救い出せ。我らが戦闘中には守るものがいないだろう」


恵美か。

確かに早く助けてやんなきゃまずいよな。

この城のどこかに,いる。


「ルゥ」


「え? あっ,はい! 」


俺の短い問いかけに不意を突かれたかのように返事をする。


「リクとか言う奴と戦っても大丈夫なのか? 」


これは当然の質問だと思った。

いくら戦争中で敵同士でも昔は一緒に遊んだ中。

本当の殺し合いなんて辛いに決まってる。


「……私は死神として戦わなきゃいけませんから。それに……」


前髪をぴょんっと指で払って照れくさそうにぼそぼそと


「ゆう……」


何て言ったのか聞こえなかった。


「だから……ゆっ,ゆうくんを守るためならどんな事だってぇ……っぅ……」


顔を真っ赤に紅潮させ,何故か頬を膨らませている。

俺も少し照れ笑い。


「我を差し置いて何をしているか」


って,入りたいのかよ!?


「くっ……くだらんっ! いいから早く行動に移すぞ! 」


こいつ,案外ネタキャラか?


「さっ,さぁ,行きましょう! 」


俺の手をしっかり握りルゥは歩いていった。

先に歩いているアレストを追うようにして。

……この城のどこかに恵美がいる。

そして,これで戦争が終わる。

俺は不安を抱きながらもルゥに連れられ一歩,また一歩と進んでいった。

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