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紺碧の死神  作者: 零光
10/14

10:守られた空間

目の前の光景はもはや戦いではなかった。


「これほどに……ちっ」


相手のキョウツとか言う男はもはや悪あがきのように雷を放っている。

両手の指先から放たれた雷は一点に集中しルゥの元へ。

しかしその攻撃も鎌を少し動かすだけで防がれてしまう。

それどころかルゥはその場から動いていないのだから。


「驟雨」


しゅうう,そうルゥが言うのが聞こえた。

次の瞬間,目では追えないような速さで移動したルゥはそいつの目の前に立っていた。

これじゃああまりにも差がありすぎる。

まるでルゥは立ち向かう事の出来ない何か。

さしずめ自然災害といったところだろう。


ここで何故か沈黙の時間があった。

ルゥはそこから動いてはいないように見えるし,相手もその場で固まったようにルゥを見上げている。


「ひっ……」


そんな男の声がしてその目の先にあるものを追うとそこには無数の光。

全て鎌のように円を描いた光でそれらが上空全体にびっしりと。

俺にも影響がってこの事か……?


「私は負けないから」


その言葉が合図だったかのように一斉にその光はそいつ目掛け飛んでいく。

俺のところにも数個飛んできたが,すり抜けるだけ。

その光はまるで魔法のようにそいつ目掛けて飛んでいく。

やがてそいつは影のように黒くなり,少しずつ消えていった。

声も出さないままに。


「ふぅ」


ルゥが翼をしまい地面に指を当てるとその空間は再び俺の部屋となった。

何も変わらない俺の部屋。


「大丈夫でしたか? 」


いつもどおりの笑顔。

さっきのルゥが戦闘モードだとして今のルゥは女子高生モードとでもいうのだろうか?


「この鎌本当に使いやすいです! 振りぬきやすくて」


無邪気に笑う目の前の少女は本当に強かった。

全ての攻撃をその鎌で無効化し,最大の攻撃を相手に浴びせる。

あの攻撃は俺にも当たる,いわゆる全体攻撃という物だろう。

だから今までは出せなかった。


「ゆうくんが無事なら全てはオッケーですね! 」


この死神の少女はさっきまでの戦いを何とも思っていないかのように笑顔で,ゆっくりとベッドに腰掛けた。


「ルゥってすごい強いんだな。あいつも結構強そうだったけど」


「あぁ,彼は聖人側の……何番手だっけな? 結構上のランクだったはずですけど。私は死神側に産まれた身として負けられませんから。小さい頃からずっと期待にこたえようとして頑張ってきました」


結構上のランクな彼を子供相手のように沈めた目の前の少女。

それほどまでに死神っていうのは強いんだな。

恐れ入りました。


「彼は7番手だ。それでもルゥには及ばなかったようだがな」


と,後ろから声がする。

そこにいたのは赤い髪のルゥのボス。

死神界ナンバー1の男。


「あ,アレスト」


ルゥは特に驚いた様子も無く平然と挨拶。

俺は驚いて唖然と。

ってか不法侵入か?

なんで俺の後ろにいるんだ?

泥棒か?


「我は質問に同時に答えるような切れ者ではない。とりあえず一つ目と三つ目は否定しておこう」


クールに決めるな。

なんか嫌な感じ。


「アレストはどうしたの? ゆうくんに手を出すって言うんなら黙ってませんけど」


ルゥは笑いながらも目は笑っていなかった。

ついでにボスに対して呼び捨てだ。

俺の予想ではアレストさんもしくはアレスト様だったんだけどな。

あるいはボス。


「こいつはお前が守るのだろう? なら我は口出ししないでおこう。死神界ナンバー1と2で争っても無駄なのでな」


とりあえず俺の質問もスルーすんな。

とりあえずなんで俺の後ろにいるのですかねぇ?


「ならお前の目の前に現れたほうが良かったか? その方がお前が我の事を幽霊だ何だといって騒いでいただろう」


今だって騒ぎたいわ。


「まぁそう騒ぐでない。お前ごとき一瞬で消せるのだぞ? 」


その言葉には重みがあり,何故か俺は恐怖心を感じた。

心のどこか奥に何か重たい物があるような。


「アレストっ!! 」


ルゥはそう叫ぶと一瞬で俺とアレストの間に立ちふさがった。

本当に速くて移動したのが見えないほどだ。


「なに,本気ではない。本当だが。それで今ここにいるのは報告のためだ。直々に会って話したほうがいいだろうと思ってな」


報告。

そう聞くとルゥはゆっくりと首を傾けた。

何でわざわざ直々になのだろう。

今までは脳内で聞こえるテレパシーのようなもので連絡を取り合っていたのに。


「聖人側の部隊は残り一つになった。ナンバー1と2の所属する最強部隊だが,もはや勝利は近いだろう。先ほどここにいたやつは恐らく命辛々生き延びてここに来たということなのだろうな。ここまではいい報告だ」


と,そこでアレストの顔は歪んだ。


「聖人側の本拠地は小細工が仕掛けられていて死神の生体オーラを感じ取って遮断してしまう。つまり単体での進入は不可能だ」


「そんな馬鹿なっ!? 」


ルゥが驚きを最大限に表した顔で立ち上がった。

俺は何故か正座。


「だってそれは……神とされるユグドラの能力じゃ……ゆうくんはここにいるから神の復活は不可能なはず」


なんとなく俺にも話が飲み込めたが,それってまずいんじゃ?

神がいると死神側は壊滅とか。


「その通りだ。恐らく神は復活まではしていないのだろう。ただその防御壁を張れるだけの容量のカップが聖人側に捕らえられているということだ。そいつの名前は小林恵美。17歳で容量は普通の人間よりも数倍はあるな。そこのカップには及ばぬようだが」


小林恵美……って,恵美じゃねぇか!?


「おい,それって」


「お前のクラスメートの一人であろう。まさかこんな近辺にここまで優れた記憶媒体が二人もいるとは」


あいつ今日は学校にいたよな?

じゃあいつ?

放課後……か。


「捕らえられたのは恐らく56分前。……5時間を過ぎるとそいつの命は無いな」


おいおい,何の冗談だよ?

そいつの命は無いって,恵美が?


「……くっそ……」


俺はどうする事も出来ない。


「それで,我がわざわざここまで来たのは他でもない,お前を使う必要があるからだ」


そう言うとアレストは俺の前に立ち,手を俺の額に当てた。


「空き容量は十分だな。鎌が入っているがこれはルゥの鎌だろう。この程度なら支障は無い」


「つまり,ゆうくんの容量を使ってその防御壁のデータを切り取り,そこに出来た空間から入り込むってことですよね? 」


俺にはわけがわからない。

とりあえず俺を使ってどうのこうの。


「その通りだ。お前も成長したな。我が教えたかいがある」


そう言うとアレストは窓のほうへゆっくり歩いていき外の満月を眺めていた。

雲一つなく夜空を照らす満月は何か言いたげのようで。


「明日は悲しみの雨を喜びの雨へ……」


ルゥは伸びをしてベッドに転がった。

そのままごろごろと。

俺は未だに正座。足が痺れてきた。


「準備が出来たらそいつを連れて月光の交差点へ。これが……最後の戦いだ」


そう言うとアレストは消えていた。

その場に一つの小さな石を置いて。


「あ,これブートストーンだ! アレストもなんだかんだでゆうくんのこと心配してるんだなぁ」


そういうとルゥはその石を俺の手のひらに置き,両手で俺の手を握る。

ルゥの手は鎌を振り回しているにもかかわらず柔らかく,しっとりしていた。


「えっと,これ何? 」


「あ,これはブートストーンと言って自身の容量をエネルギーに変換して使う事が出来るんです。だからゆうくんも少しは戦えるかもしれませんね」


まさに便利な石だな。


「でも,必要なときだけしか戦おうなんて思わないで下さいね。私が守りますもん」


俺はその石をしっかりとポケットに入れた。

軽石のようで重さは無かった。


「えっと,ごめんなさいね,ゆうくんを最後まで巻き込むような形になってしまって。一緒に来て欲しいんです」


そりゃもう行きますよ。

俺が行かなきゃいけないんだし,恵美も心配だ。

これで最後なら,ルゥにも頑張ってもらわなきゃな。


「全力でいきますよ! じゃあ行きましょうか。ゆうくん」


そう言うとルゥに手を引かれ俺は窓をすり抜けて庭に着地していた。

今俺はマジックショーを一瞬で行ったんだな。

ルゥの手に任せて俺は進んでいった。

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