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船長は恋がしたい  作者: 28号
船長は恋がしたい
1/17

1 右手が大惨事

 目が覚めると、右腕がかぎ爪になっていた。

「お目覚めですかキャプテン」

 優秀な副官の声に、視線を動かせば、寝起きに見ると思わずキスしたくなるほど美しい顔がそこにある。男であることが非常に惜しい彼は、この船で最も優秀な若者、リード航海士である。

「リード君」

「何でしょうキャプテン」

「右手首から先が、かぎ爪になっているんだが」

「鍛冶の国の職人に作らせた特注品です。内部には毒もしこんでありますので、暗殺にも使える優れものです」

 真面目な顔で説明され、キャプテンことカイン=モーガンはかぎ爪を体から離した。

 そのとき、彼の寝ていた船室の扉が乱暴に開かれた。

 そこからなだれ込んできたのは彼の部下。誰もが小汚く人相が悪いのは、カインが海賊のキャプテンであるからだ。

「キャプテンが目覚めたぞ!」

「さすが、あの剣豪とやり合った後なのにピンピンしてやがる!」

 ピンピンはしていない。何せ右手がかぎ爪である。

「おぉ、その右手格好いいですね!」

「キャプテンって言う感じだな!」

「ますます箔がつくな!」

 そういって大喜びする部下達。

 それを見ていたカインは、かぎ爪で側にあった枕をビリビリに引き裂いた。

 舞い上がる羽毛に怯える部下達。

 その向こうでキャプテンカインは…

「馬鹿野郎!こんなんじゃ、余計女の子にモテないじゃないか!」

 猛烈に泣いていた。

 船内の誰よりも強面の顔に涙をたたえ、キャプテンは泣いていた。

「来週でもう35なんだぞ! それなのにこんな! こんな右手でどうやって彼女を作れと!」

 魔法と冒険に満ちた7つの海。

 そこに名をはせる凄腕の大海賊は、強面故に未だ童貞だった。


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