1 右手が大惨事
目が覚めると、右腕がかぎ爪になっていた。
「お目覚めですかキャプテン」
優秀な副官の声に、視線を動かせば、寝起きに見ると思わずキスしたくなるほど美しい顔がそこにある。男であることが非常に惜しい彼は、この船で最も優秀な若者、リード航海士である。
「リード君」
「何でしょうキャプテン」
「右手首から先が、かぎ爪になっているんだが」
「鍛冶の国の職人に作らせた特注品です。内部には毒もしこんでありますので、暗殺にも使える優れものです」
真面目な顔で説明され、キャプテンことカイン=モーガンはかぎ爪を体から離した。
そのとき、彼の寝ていた船室の扉が乱暴に開かれた。
そこからなだれ込んできたのは彼の部下。誰もが小汚く人相が悪いのは、カインが海賊のキャプテンであるからだ。
「キャプテンが目覚めたぞ!」
「さすが、あの剣豪とやり合った後なのにピンピンしてやがる!」
ピンピンはしていない。何せ右手がかぎ爪である。
「おぉ、その右手格好いいですね!」
「キャプテンって言う感じだな!」
「ますます箔がつくな!」
そういって大喜びする部下達。
それを見ていたカインは、かぎ爪で側にあった枕をビリビリに引き裂いた。
舞い上がる羽毛に怯える部下達。
その向こうでキャプテンカインは…
「馬鹿野郎!こんなんじゃ、余計女の子にモテないじゃないか!」
猛烈に泣いていた。
船内の誰よりも強面の顔に涙をたたえ、キャプテンは泣いていた。
「来週でもう35なんだぞ! それなのにこんな! こんな右手でどうやって彼女を作れと!」
魔法と冒険に満ちた7つの海。
そこに名をはせる凄腕の大海賊は、強面故に未だ童貞だった。