04「回霊祭 3」
私は上機嫌で、次の目的地へと豆千世を移動させる。
実は、今回の目的地――スチル撮影スポットはもう一つある。つまり、もう一人の攻略キャラに会いに行くのだ。
正直なところ、「彼」は他のキャラに比べて、危険な被写体かもしれない。
彼は若くして天才と謳われる陰陽師。式神の存在に気づく可能性が、もっとも高い。最悪、豆千世が消されてしまったり……?
「バレたらどうなるか考えたくないけど……撮らずにはいられない!」
空を飛ぶ豆千世が「ジュリリ」と抗議の鳴き声を上げている。
ごめんよ……無事に帰ってきたら、おやつ多めにあげるから。
豆千世にあげるおやつを何にしようか考えているうちに、次の目的地である「ご神木」へと近づいてきた。
禎連京にはご神木という、神代に植えられたとされる特別な常緑樹が点在している。この木には霊力を溜め込む性質があるそうで、都の結界を構成する結節点となっている。ゆえに、禎連京は「常盤の都」とも呼ばれる。
徒歩で移動している真日流ちゃんがたどり着くには、まだ少し時間がかかる。彼女が来るまで、不用意に現場へは近づかないようにしよう。
そこで、豆千世を近くの木の枝に止まらせて、改めて霊力を送る。私は絵巻の上に筆で丸を描き、その中心を突く。
「ふっふっふ……ここは新機能の出番ね」
急ごしらえではあるけれど、前世で言うところのズーム機能を術式に取り入れた。望遠でこっそりと被写体を追ったり、広角で真日流ちゃんと攻略キャラの二人だけの世界を切り取ったりと、かなり使い勝手がよくなるはずだ。
問題はそれなりに霊力を消費することと、繊細な式神操作が必要なこと。こればかりは、私自身が慣れていくしかない。
豆千世の瞳がきらりと光り、その視点がご神木の根元へと接近していく。ここに立ち寄るはずの真日流ちゃんの姿はまだ見えない。
私は筆を動かして慎重に豆千世へ指示を送る。すると、焦点がゆっくりと動き、少し離れた場所に立つ人物、その背中を捉える。
彼こそが「不二 未明」。式武科の生徒の中でも、ずば抜けて優秀な陰陽術の使い手だ。天才ともてはやされるがゆえに、彼もまた孤高……あるいは、孤独な人物である。
未明は完璧主義でプライドが高く、誰かと馴れ合うこともない。しかし、他人に興味がないように見えても、心の奥底では苦悩を抱えている。
彼のルートでは、真日流ちゃんが未明の苦悩に根気強く寄り添い、傷を癒やしてくれるのだけど……いまだに到着していない。こっちは気づかれてしまうんじゃないかと、内心はらはらしてるよ!
回霊祭の期間中、未明は式武科生徒たちを取り仕切り、結界の維持作業を監督している。つまり、多忙で気が立っているのだ。くわばら、くわばら。
ふと、こちらに背を向けていた未明が、くるりと振り返る。切りそろえられた青い髪が揺れ、切れ長の涼やかな水色の瞳が視界に飛び込んでくる。
「うわわっ!」
私は思わず拡大状態を解除して、被写体から離れる。とはいえ、豆千世の居場所は変わらないので、あまり意味はないのだけど。ただただ、心臓に悪い。
どうやら、ようやく真日流ちゃんがご神木のもとにたどり着いたようだ。おそらく、周辺の霊気に微弱な変化があったはずだ。即座に異変に気づいた未明が、制服の裾を翻して小走りで駆けていく。
偶然にも、街外れのご神木の前を通りがかった真日流ちゃんは、その清浄な霊気に触れたことで、無意識的に祈りを捧げていた。
真日流ちゃんは陰陽術の水行――浄化や治癒、操作の術を得意としている。中でも浄化の力が突出して強く、それだけで言えば未明よりも勝っている。彼女の浄化の力は、心から祈ることで増幅する。自覚はなくとも、稀有な能力だ。
しかし、今はタイミングが悪かった。浄化の力が悪影響を及ぼすことはないものの、結界の調整中にご神木に異変があったとなれば一大事だ。
焦った様子の未明は、ご神木の前でかがんでいる不思議な少女の姿を認めると、眉をひそめてこう言った。
「――君は、何者だ?」
誠に遺憾ながら。大事な場面だというのに、絵巻物にスピーカーはなく、豆千世にもマイクは搭載されていない。なので、今の台詞は私のアテレコ……!
集音機能については完全に失念していたので、最優先で検討しよう!
私は険しい表情のままに筆を持って、的確に豆千世に撮影の命令を出す。今なら真日流ちゃんに意識を向けているので、式神の気配は悟られにくいだろう。
「何はともあれ、これで今日の目標は達成!」
絵巻からカシャリと小気味よい音がして、瞬時に撮影が完了する。霧が晴れるようにゆっくりと、手にした絵巻に大きな画像が浮かび上がる。
ようやく、ご神木を背景に二人が向かい合うスチルが撮れた。出会いのシーンらしく、幻想的な一枚だ。きっとこれから二人は仲を深めていくんだろうなぁ……という、想像がかき立てられる。
「よし、あとは……すみやかに撤収だー!」
用心のため、今回は撮影後の様子は観察しないことにした。二つの現場で仕事をこなして、豆千世も疲れてるだろうし、私も早く改良作業に着手したい。
私はすぐさま豆千世に帰還の指示を送る。留まっていた枝葉を揺らし、豆千世が空へと羽ばたく。
美麗スチルゲットの余韻にひたるのはひとまず我慢して、私と豆千世は逃げるように家路についたのであった。




