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あの、僕男ですが、何故か聖女スキルを獲得して剣姫達と魔王を倒す旅に出ます。  作者: 三科異邦
第一章 聖女(男)になりました。

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――聖女と意思

(リディア・エルノア視点)


教会式聖女訓練は、完璧でなければならない。


それが、私の信念だった。


無駄のない手順。

感情を排した指導。

個を削ぎ落とし、神意のみを通す器へと仕上げる。


――正しい。

少なくとも、私はそう信じてきた。


「では、開始します」


白い円形の祭室。

床には精緻な聖紋が刻まれ、外界との遮断結界が張られている。


中央に立つのは、テイル・カトレア。


彼は、教会が用意した純白の法衣を身にまとっていた。

剣姫たちは外。

立ち会いを許されたのは、私と数名の聖務官のみ。


「聖女は、祈りなさい」


指導官が淡々と告げる。


「感情を捨て、意思を空にし、

神に身を委ねるのです」


……これが、教会式。


私は黙って見守った。


テイルは、言われた通り目を閉じる。

両手を胸の前で組み、呼吸を整える。


「……」


沈黙。


「……?」


違和感。


魔力の流れが、鈍い。


(なぜ……)


彼は、確かに祈っている。

形は、完璧だ。


だが――。


「祝福を展開しなさい」


指示が飛ぶ。


《祝福付与》


淡い光が広がる。

だが、その光は――薄い。


「……出力が低いですね」


指導官が首を傾げる。


「集中が足りません。

もっと、心を空に」


「……はい」


テイルの声は、静かだ。


だが、私は気づいた。


彼の魔力が、“止められている”。


抑圧されている。


「聖女は、感情を持ってはいけません」


指導官の声が続く。


「個人的な判断、関係性、恐れ、喜び――

それらは祝福を濁らせます」


その言葉に、テイルの指先が、わずかに震えた。


「……もう一度」


再度、祝福。


今度はさらに弱い。


(……おかしい)


彼のスキル出力は、

現場で見てきたものとは、まるで別物だった。


「失格だな」


指導官が、冷たく言い放つ。


「やはり、男の聖女には無理がある」


その瞬間。


――胸が、強く締めつけられた。


(違う)


これは、才能の問題ではない。


「……少し、よろしいですか」


私は、思わず口を開いていた。


指導官が振り返る。


「聖律官?」


「彼に、質問を」


一拍の沈黙。


「……許可します」


私は、テイルに向き直った。


「あなたは今、何を考えていましたか」


彼は、少し戸惑ってから答えた。


「……誰も、傷つかないように、って」


「それを、捨てなさいと言われたら?」


彼は、即答しなかった。


しばらく考え――。


「……祝福が、出せなくなります」


指導官が、苛立ったように言う。


「だから、それが問題なのです」


「いいえ」


私は、はっきりと言った。


「問題なのは、そこではない」


場が、静まり返る。


「この訓練は、

彼から“祝福が生まれる理由”を奪っています」


指導官の眉が吊り上がる。


「感情は、不純です」


「……本当に?」


私は、静かに続けた。


「彼の祝福は、

誰かを守りたい、という意思から生まれている」


「それは、聖女として未熟だ」


「いいえ」


はっきりと、否定する。


「それは――

“生きている聖女”です」


空気が、凍りついた。


テイルが、驚いたようにこちらを見る。


(……ああ)


この瞬間、私は理解してしまった。


教会式訓練は、

聖女を“安全”にするためのものだ。


だがそれは同時に、

聖女を空っぽにする儀式でもある。


「この訓練は、中止します」


私の声は、震えていなかった。


「聖律官!」


「責任は、私が取る」


そう言い切った瞬間、

胸の奥で、何かが崩れた。


――信じてきたものが、音を立てて。



訓練室を出た後。


「……すみません」


テイルが、小さく頭を下げた。


「僕のせいで」


「いいえ」


私は、即座に否定した。


「間違っていたのは、私たちです」


彼は、目を見開く。


「あなたは……祈らなくても、祝福できる」


私は、静かに言った。


「それは、神を否定しているのではない」


「……?」


「あなた自身が、

“人として”神意を通している」


彼は、何も言わなかった。


だが、その沈黙は、拒絶ではなかった。


(……もう戻れない)


私は、悟った。


教会が守ってきた“聖女像”は、

もはや、この少年には通用しない。


そして――

通用しないのは、

彼が間違っているからではない。


世界の方が、変わり始めているのかもしれない。


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