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あの、僕男ですが、何故か聖女スキルを獲得して剣姫達と魔王を倒す旅に出ます。  作者: 三科異邦
第一章 聖女(男)になりました。

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――兆し

問題は、想像以上に深刻だった。


「……制御が、できていない」


朝の野営地。

アリシアは腕を組み、いつになく険しい表情でそう断じた。


「聖女スキルは本来、長年の修練を経て扱われるものだ。

それが、いきなり完全顕現――しかも男に宿った」


「つまり?」


セレナが、焚き火の棒で地面をつつきながら言う。


「暴発寸前、ってことよ」


……物騒だな。


「副作用として感情の高揚が増幅される以上、

距離が近い状態で制御できなければ、実戦では使えない」


アリシアの視線が、僕に突き刺さる。


「よって、訓練を行う」


「訓練……?」


嫌な予感しかしない。


「名付けて――密着制御訓練」


セレナが、にっこり笑った。


「却下で!」


即答したが、二人は聞いていなかった。



訓練内容は、単純にして地獄だった。


「聖女スキルを最低出力で維持したまま、

対象と一定距離以内を保つ」


「一定距離って……」


「このくらい」


アリシアが、一歩前に出る。


……近い。

普通に近い。


剣姫アリシア・レインハルト。

冷静沈着、鋼の精神を持つ女剣士。


その彼女が、目の前にいる。


「では、発動しろ」


「……はい」


《祝福付与・抑制》《感覚同調・最小》


淡い光が、ゆっくりと広がる。


「……っ」


アリシアの肩が、わずかに震えた。


「大丈夫?」


「……問題ない」


即答だが、視線が泳いでいる。


「心拍数が上がっている。

だが、許容範囲だ」


……本当か?


「次。セレナ」


「はーい」


セレナは、軽い足取りで近づいてくる。


「ねえテイル」


「な、なんですか」


「緊張してる?」


「してます!」


距離が、さらに近い。


「大丈夫よ。

訓練、訓練」


《祝福付与・抑制》


「……っ、は……」


セレナが、思わず息を詰めた。


「ちょ、ちょっと……これは……」


「無理そう?」


「無理っていうか……」


彼女は片手で口元を押さえ、視線を逸らす。


「……これ、心臓に悪いわ」


「訓練中です」


アリシアが、冷静を装って言う。


「……次は、二人同時だ」


「ちょっと待って!?」


待ってもくれなかった。



結果から言えば――失敗だった。


二人同時に祝福をかけた瞬間、

空気が一気に張り詰める。


「……っ」


アリシアの剣が、地面に突き立つ。


「集中しろ……集中……」


セレナは、逆に動けなくなっていた。


「だ、だめ……近すぎ……」


「……すぐ解除!」


スキルを切ると、二人は同時に深呼吸した。


沈黙。


「……結論だ」


アリシアが言う。


「聖女本人の感情制御が鍵だ」


「僕?」


「そうだ。

君が動揺すれば、祝福は連動して揺れる」


セレナが、苦笑する。


「つまり、テイルが慣れるしかないってこと」


「慣れるって……」


「こういう距離に」


……地獄じゃないか。



午後。

追加訓練が始まった。


今度は――一対一での密着制御。


「まずは、私だ」


アリシアが名乗り出る。


「背中合わせで、一定時間祝福を維持しろ」


「背中……」


「視線を合わせない分、マシだろう」


確かに。


背中越しに伝わる、体温。

呼吸のリズム。


《祝福付与・抑制》


……いける。


「……悪くない」


アリシアの声が、少し柔らぐ。


「次、私ね」


セレナは、今度は正面から来た。


「……え?」


「逃げない」


距離は、ほんの一歩分。


「ほら、呼吸合わせて」


……近い。

でも、さっきより落ち着いている。


《祝福付与・抑制》


「……ふふ」


セレナが、小さく笑った。


「大丈夫そうね」


「……はい」


心拍数は高い。

でも、制御できている。


「合格……かな」


アリシアが、少しだけ目を細めた。



夜。

焚き火の前。


「お疲れさま、聖女くん」


セレナが、いつもより穏やかな声で言う。


「今日は、よく頑張ったと思うわ」


アリシアも頷く。


「制御の兆しは見えた。

あとは、慣れだ」


「……慣れ、ですか」


「そうだ」


二人の視線が、同時に僕に向く。


「これからも、近くにいる」


「逃げ場、ないわよ?」


……胃が痛い。


だが、不思議と――嫌ではなかった。


男の聖女。

その力は危険で、厄介で、面倒だ。


それでも。


「……頑張ります」


そう言うと、二人は小さく笑った。


密着訓練は、まだ始まったばかり。

そしてこの距離が、いつか“当たり前”になることを――

僕はまだ知らない。

お読みいただきありがとうございます。

読んで面白いと思った方は是非評価のほどよろしくお願いします。

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