――閑話休題、聖女スキルは、祈りから生まれる
夜更け。
帝国の宿の一室で、灯りを落としたまま、僕は掌を見つめていた。
淡く、白い光。
意思を向けると、じわりと熱を帯びる。
「……やっぱり、まだ不安定ね」
リディアの声は静かだった。
責めるでも、評価するでもない。
「うん」
僕は正直に頷く。
「出そうと思えば出る。でも……“どう使うか”が、まだ曖昧だ」
その言葉に、セレナが小さく息を吸った。
「それが、普通なの」
⸻
■ 聖女スキルの正体
「聖女スキルって、よく“神の力”って言われるけど」
セレナは椅子に腰掛け、ゆっくり話し始めた。
「実際は、もっと人間的なものよ」
祝福は、空から降ってくる奇跡じゃない。
心の奥――
“強く揺れた感情”に呼応して、形を取る力。
「守りたい」
「救いたい」
「失いたくない」
そういう想いが、世界に干渉する。
「だから聖女スキルは、全部“同じ形”にはならない」
剣火が腕を組む。
「回復、結界、浄化、強化……」
「教会では分類されてるけど、実際はもっと曖昧だよね」
「そう」
リディアが続ける。
「本来は、用途じゃなく“性質”で決まる」
⸻
■ 教会式スキル分類の問題
教会は聖女スキルを、こう分ける。
•回復系
•浄化系
•補助系
•対魔特化
分かりやすい。
軍事運用に向いている。
「でも――」
セレナは少しだけ声を落とした。
「それ、後付けなの」
本来、祝福は“状況依存”で姿を変える。
回復にもなれば、防御にもなる。
「教会は、それを嫌った」
リディアが言う。
「変化する力は、制御できないから」
だから型を決め、祈りを固定し、感情を排除した。
「結果――」
「強いけど、壊れやすい聖女が量産された」
部屋に、静かな沈黙が落ちる。
⸻
■ テイルのスキルが「異常」な理由
「じゃあ、テイルは何が違うの?」
アリシアが尋ねた。
セレナは僕を見る。
「テイルの祝福は、“対象選択型”」
「……対象?」
僕は首をかしげる。
「誰を守りたいか」
「何を守りたいか」
「どこまで守りたいか」
それが、出力と性質を決める。
「剣を強化することもできる」
「結界を張ることもできる」
「回復も、浄化も――条件次第」
剣火が目を丸くした。
「それ、万能じゃん」
「違う」
リディアが首を振る。
「“制御が難しすぎる”」
感情が揺れれば、出力も揺れる。
迷えば、力も迷う。
「兵器としては最悪」
「でも――」
リディアは、はっきり言った。
「人を守る力としては、理想形よ」
⸻
■ 副作用の正体
「副作用は、力が強すぎるからじゃない」
セレナの声は、少し痛みを帯びていた。
「“心が追いついていない”だけ」
祝福は前に出ようとする。
だが、使う側が覚悟できていないと、反動が来る。
「吐き気、視界不良、感覚遮断」
「全部、拒否反応」
「……じゃあ」
僕はゆっくり言った。
「克服するには?」
セレナは即答しなかった。
代わりに、剣火が言う。
「決めるしかないんじゃない?」
「何のために使うか」
リディアが頷く。
「“誰かを守る”じゃ足りない」
「“誰を、どこまで守るか”を」
それは、力の問題じゃない。
生き方の問題だ。
⸻
■ 聖女スキルは、選択の力
「聖女スキルはね」
セレナが、最後に言った。
「世界を書き換える力じゃない」
「“選び続ける力”よ」
何を救い、
何を救わないか。
その積み重ねが、祝福の形を決める。
僕は、ゆっくり拳を握った。
光が、静かに宿る。
「……なら」
「僕は、選ぶ」
誰かに決められるんじゃない。
教会でも、帝国でも、魔王でもない。
「《希望の光》として」
部屋の中で、仲間たちが静かに頷いた。
これは、力の話じゃない。
これは――
意思の話だ。




