――《希望の光》という歪なパーティについて
帝国の夜は静かだった。
宿の窓から見える街路は、昼の喧騒が嘘のように落ち着き、遠くで巡回兵の足音だけが規則正しく響いている。
その静けさの中で、僕たちは久しぶりに“戦いのない時間”を過ごしていた。
「……こうして落ち着いて座るの、久しぶりじゃない?」
アリシアが椅子にもたれ、肩の力を抜いて言う。
「確かに」
剣火が腕を組んだまま、少し笑う。
「最近は街に出れば警戒、外に出れば任務。頭を整理する時間がなかった」
リディアはテーブルの上に広げた紙束を軽く整えながら、僕を見た。
「だから、ちょうどいいわ」
「一度、私たち自身の立ち位置を確認しましょう」
セレナが小さく頷く。
「……ここは帝国。王国でも教会でもない」
「だからこそ、“私たちが何者なのか”を、はっきりさせておく必要がある」
僕はその言葉に、ゆっくり息を吐いた。
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■ テイル ――「僕」と名乗る男の聖女
「まずは、テイルからね」
リディアが視線を向ける。
その目は研究者のものではなく、仲間としての確認だった。
「男の聖女。祝福は強力だけど、副作用がある」
「感情に強く反応し、“守りたい”という意思が出力に直結する」
「……兵器向きじゃないわね」
剣火が率直に言う。
「うん」
僕は苦笑した。
「たぶん、教会が一番嫌うタイプだと思う」
力を振るう理由が、命令でも義務でもなく――感情だから。
「でもね」
セレナが静かに言う。
「だからこそ、壊れにくい」
彼女は僕を見る。
「“使われる聖女”じゃない」
「“選ぶ聖女”になれる可能性がある」
僕はその言葉を、胸の奥で噛みしめた。
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■ リディア ――剣姫にして、決断者
「次は私ね」
リディアは自分の剣を一度だけ見下ろしてから、口を開く。
「王国騎士団所属だった剣姫」
「教会と距離を取り、最終的には離反した」
「完全に裏切った、の間違いでしょ」
剣火が軽く笑う。
「そうとも言うわね」
リディアは否定しなかった。
彼女は常に冷静で、判断が早い。
だがそれは、感情を捨てたからではない。
「私は、教会のやり方が許せなかっただけ」
「“正しい力”を、人を壊すために使うことが」
だから彼女は剣を取った。
守るために、選ぶために。
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■ 剣火 ――剣姫であり、炎のような存在
「じゃあ次、私?」
剣火は椅子の背に腕を回し、楽しそうに言う。
「元・王国騎士団剣姫」
「実戦派。考えるより先に体が動くタイプ」
「自覚はあるんだ」
アリシアが呆れたように言う。
「もちろん!」
剣火は笑う。
「でもね、私が動くのは“仲間がいるから”だよ」
彼女は僕を見る。
「テイルが倒れないように」
「リディアが判断に集中できるように」
一見、無鉄砲。
だが実際は、パーティの“前線を引き受ける覚悟”を一身に背負っている。
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■ セレナ ――聖女を知る者
「……私は?」
セレナは少しだけ言いづらそうに尋ねた。
「情報役」
リディアが即答する。
「聖女の在り方を知っている」
「帝国と王国、教会の“違い”を肌で感じてきた」
セレナは元々、聖女に近い位置にいた。
だからこそ、分かる。
聖女が壊れる瞬間を。
祝福が呪いに変わる瞬間を。
「私は……」
彼女は少しだけ目を伏せる。
「同じ失敗を、繰り返してほしくないだけ」
その言葉は、とても重かった。
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■ アリシア ――繋ぎ止める存在
最後に、アリシアが肩をすくめる。
「私は?」
「戦闘力はそこそこ、頭脳派ってほどでもないけど」
「調整役ね」
僕が言った。
「空気を読んで、場を和らげて」
「誰かが無理しそうな時、ちゃんと止める」
アリシアは一瞬驚いた顔をしてから、照れたように笑う。
「……そう見えてたなら、嬉しいな」
彼女がいるから、このパーティは崩れない。
感情と理性の間で、常にバランスを取っている。
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■ 《希望の光》という未完成
「つまりさ」
剣火が言う。
「このパーティ、めちゃくちゃ歪んでるよね」
誰も否定しなかった。
聖女は男。
剣姫は教会離反者。
魔王軍からは狙われ、王国と教会からも危険視されている。
「でも――」
僕は皆を見る。
「だからこそ、選べる」
誰に従うか。
誰を守るか。
どう生きるか。
「私たちは、装置じゃない」
リディアが静かに言った。
「《希望の光》は――」
セレナが続ける。
「意思を持つ存在」
夜の帝国都市は静かだ。
だがその静寂の下で、確実に世界は軋んでいる。
そして僕たちは、その中心に立とうとしている。
――これは、嵐の前の、ほんの短い休息。
次に動き出す時、
もう“無関係”ではいられない。




