――圧力と干渉
夕暮れの帝国都市は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。石畳の街路に街灯が灯り、長い影を落とす。僕たち《希望の光》は、王国や教会の監視の目を意識しながら、ひっそりと街中を進む。
「暗くなってきたわね……」
セレナが小声でつぶやく。
「人影も少なくなるし、こういう時こそ注意が必要よ」
「情報収集も兼ねて、街角の裏路地や市場を回ろう」
僕は剣を握りながら、周囲を警戒する。副作用が出ないように光の祝福は最小限に留めた。
角を曲がった先、薄暗い建物の前で異変に気づいた。壁に貼られた張り紙、聞き慣れない言葉。市民たちは警戒し、誰も近づこうとしない。
「これは……何かの合図?」
リディアが地図を確認しながら眉をひそめる。
その時、背後から影が動いた。鋭い視線を感じて振り返ると、黒衣の人物が壁際に隠れてこちらを窺っている。
「見つかった……?」
アリシアが小声で息をつく。
「でも、どうやら敵意だけじゃないわ」
僕はゆっくり近づき、声を潜めて言う。
「こちらは害はない。街で情報を集めているだけだ」
黒衣の人物は、短く間を置いてから頷いた。
「……あなたたちが、帝国内に潜伏している者か」
その声には、警戒と興味が混じっていた。
「潜伏……じゃないけど、帝国内で安全に行動できる場所を探しているんだ」
僕は視線を逸らさずに答える。
人物は軽く笑った。
「そうか。情報を求めるなら、こちらの網を使うといい」
彼は地図と幾つかの符号を差し出す。
「だが、王国と教会の監視も強い。間違えば命取りだ」
「なるほど……」
リディアが資料を受け取りながらうなずく。
「帝国内での立ち回りは、こういう接触が鍵になるのね」
その時、街の一角で物音がした。人影が複数、僕たちに近づいてくる。武器を携え、動きも素早い。小規模な戦闘の兆しだ。
「襲われる……!」
剣火が叫ぶ。
「油断は禁物!」
僕は剣を抜き、光の祝福を展開する。周囲の影を明るく照らし、敵の動きを封じる。
「副作用に注意……!」
リディアが隣で剣を構える。剣技と光の祝福のタイミングを調整し、接近する敵を次々と牽制する。
戦闘は短時間で、しかし緊張感に満ちていた。敵は僕たちを排除しようと動くが、僕たちは連携を活かして最小限の攻撃で撃退する。
「ふぅ……危なかった」
アリシアが息を整える。
「でも、こういう経験で副作用の制御も磨けるわね」
「敵は完全に排除できたか……」
僕は周囲を見渡す。影は消え、街は再び静寂に包まれる。しかし、帝国内での安全が確保されたわけではないことを痛感する。
「今回の戦闘でわかったことは、副作用コントロールだけじゃなく、仲間との連携が重要だってこと」
リディアが剣を鞘に納めながらつぶやく。
「敵の動きを読んで、事前に動けるかどうかが勝敗を左右する」
セレナも静かにうなずく。
「帝国内での生活は平穏そうに見えても、常に緊張は必要ね」
夕方、宿に戻ると、今日の出来事を整理する。街での小規模戦闘、黒衣の情報提供者との接触、副作用コントロールの実践……全てが次の行動への布石となる。
「明日も、街の情報収集と任務の両立だ」
僕は仲間たちに声をかける。
「帝国内で力を制御し、信頼を得る。それが僕たち《希望の光》の戦略だ」
灯りが街を照らし、影と光が交錯する。
薄い霧に包まれていた。石畳の街路に街灯の残光がまだ残り、影を長く伸ばしている。僕たち《希望の光》は、宿を出て街の中心へ向かう途中、昨日の小規模戦闘と情報収集の結果を思い返していた。
「今日の任務、ちょっと重そうね」
セレナが小声でつぶやく。
「街全体を警戒しながら動くなんて……帝国内でここまで大規模に動くのは初めてじゃない?」
「慎重に、でも確実にやろう」
僕は剣を軽く握る。副作用の兆候を抑えつつ、剣姫たちと連携して行動するためだ。
「昨日の情報提供者からの情報もある。王国や教会の監視が強化されているから、行動は目立たないように」
街の広場に差し掛かると、人々の視線が僕たちに集まる。噂を聞きつけた市民、王国や教会の影響を受けた巡回兵、警戒心と好奇心が入り混じる複雑な視線だ。
そのとき、王国の使者が大勢、馬に乗って広場に到着した。官服に身を包み、装飾された鎧が光を反射している。教会の司祭も数名、使者に同行している。
「男の聖女! 帝国内での行動は即刻制限される!」
使者の声が広場に響く。周囲の人々も足を止め、僕たちをじっと見つめる。
「制限……? ここまで露骨に干渉してくるとは」
リディアが眉をひそめる。
「でも、力を使わずに無害に動く方法を考えれば……」
僕は仲間に小声で指示を出す。
「副作用を抑えて、目立たず行動しつつ、情報を収集しよう。大規模任務は、単なる街道護衛じゃない。都市全体の安全確保と監視網の把握も兼ねる」
広場の一角で小さな騒ぎが起きる。商人の荷物が転がり、子供たちが泣き叫ぶ。僕たちはすぐに駆け寄り、光の祝福と剣技で混乱を抑える。
「危ないところだったわね」
アリシアが息を整えながら言う。
「街全体で小さな事件が連鎖すると、大きな混乱につながる」
「こういう場面でも、僕たちの動きを見られているんだ」
剣火がつぶやく。
「王国や教会は、きっとこの動きも評価している……いや、監視しているはずだ」
宿に戻ると、仲間たちと作戦会議を開く。帝国内での行動範囲、街全体の警備状況、王国・教会の監視の強さ、情報提供者のデータ……整理すべきことは多い。
「これだけの監視下だと、街を完全に自由に動くのは難しいわね」
リディアが資料をめくる。
「でも、私たちの力を活かせる範囲を知ることが重要」
「副作用も完全に抑えられるわけじゃない。だが、昨日までの経験を活かせば、効率よく任務を遂行できる」
僕は剣を軽く握り直し、仲間たちの顔を見る。
「慎重に、でも確実に」
夕方、街の郊外で護衛任務の一環として帝国内の通行路を確認する。副作用はほとんど出ない。剣姫たちの連携と、リディアの戦術判断が功を奏している。
「やっぱり、実戦での経験が一番ね」
剣火が息を切らしながら笑う。
「理論だけじゃなく、体で覚えることが大事」
「副作用も少しずつコントロールできるし、街での任務でさらに精度を上げられるわ」
リディアも微笑む。
「王国や教会の圧力は強いけど、仲間と一緒なら対処できる」
夜、街灯が灯る広場で、僕は立ち止まり空を見上げる。帝国内の静寂は脆く、王国・教会の監視は常に存在する。しかし、慎重に、確実に行動すれば、僕たちは帝国内でも信頼を得て、力を伸ばせる。
「明日も街での任務と訓練を両立させよう」
僕は仲間たちに声をかける。
「副作用を抑えつつ、帝国内で信頼を積み、次の戦いに備える」
リディア、剣火、セレナ、アリシア――皆がうなずき、決意の光を湛える。




