――聖女の副作用は、心を揺らす
異変に最初に気づいたのは、僕だった。
朝、目を覚ますと、胸の奥が妙にざわついていた。
魔力が満ちている――というより、溢れている感覚。
「……昨日、使いすぎたか?」
二人同時の全体強化。
あれは確かに、限界に近い出力だった。
宿の食堂に降りると、すでに二人は来ていた。
「おはよう、テイル」
セレナがいつも通り艶やかに手を振る。
だが――。
「……?」
視線が、やけに熱い。
「な、なにか顔についてます?」
「え? あ、ううん、なんでもないわ」
そう言いながら、彼女は視線を逸らす。
……珍しい。
アリシアも様子がおかしかった。
無言で紅茶を飲んでいるが、耳がわずかに赤い。
「アリシア、大丈夫?」
「……問題ない」
即答だが、目が合わない。
この空気、なんだ?
⸻
街道を進む途中、小規模な魔物の群れに遭遇した。
「支援を」
アリシアの合図で、僕はスキルを展開する。
《祝福付与》《感覚同調・弱》
その瞬間――。
「……っ!」
セレナが、びくりと身体を震わせた。
「せ、セレナ?」
「な、なにこれ……!」
彼女は剣を握ったまま、呼吸を乱す。
「身体が熱い……鼓動が、早……」
アリシアも同様だった。
「……集中しろ」
そう言いながらも、彼女の剣筋がわずかに乱れる。
「アリシア?」
「……問題、ない……はず、だ……」
魔物を斬り伏せた直後、二人は同時に距離を取った。
「……テイル」
セレナが、珍しく真剣な声で呼ぶ。
「あなた、今……なにをした?」
「え? いつも通り、強化と……感覚同調を少し」
沈黙。
アリシアが深く息を吐いた。
「……どうやら、聖女スキルの副作用だ」
「副作用?」
「聖女の祝福は、身体能力だけでなく――感情と高揚感も増幅する」
セレナが苦笑する。
「つまり……戦闘向きの“昂ぶり”が、変な方向に……ね」
彼女はちらりと僕を見る。
一瞬、視線が絡んだだけなのに――。
「……っ」
セレナの肩が跳ねた。
「ちょ、ちょっと! 今、目合ったでしょ!」
「え、はい……?」
「ダメ、近づかないで……近いと、その……」
言葉を濁すセレナ。
顔が、明らかに赤い。
アリシアも同じだった。
こちらを見ないようにしながら、低い声で言う。
「……テイル。しばらく、私たちに触れるな」
「触れてません!」
「視線もだ」
理不尽!
「……あなたの祝福下では、心拍数、感覚、感情……すべてが鋭敏になる」
アリシアは淡々と説明するが、耳まで真っ赤だ。
「戦闘中なら問題ない。
だが、平時では――」
「危険ね」
セレナが続ける。
「いろんな意味で」
二人の視線が、同時に僕に向く。
「……」
「……」
「……あの」
「しばらく、距離を保とう」
「賛成」
即決だった。
その日の野営。
焚き火を挟んで、妙に距離を取る三人。
「……ごめん」
僕が言うと、セレナは首を振った。
「謝ることじゃないわ。
むしろ……」
一瞬、言葉を切ってから。
「あなたの力が、それだけ“強い”ってこと」
アリシアも頷く。
「制御法を見つける必要がある。
このままでは、任務に支障が出る」
……剣姫が、聖女の副作用で動揺する世界。
「……とりあえず、感覚同調は封印します」
「それがいいわね」
「……賢明だ」
だが。
焚き火越しに視線が合うたび、
二人がわずかに身じろぎするのを、僕は見逃さなかった。
男の聖女。
その力は、剣だけでなく――心まで震わせる。
そしてこの副作用が、
後にさらに大きな波乱を呼ぶことになるのだった
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