――幕間、帝国領内、男の聖女捕獲命令
帝国領内、ヴァルハイム郊外――
街道や森を巡回する僕たち《希望の光》の存在は、
遠く、魔王軍の城にも届いていた。
玉座室。
高い天井と静謐な空気、整然と並ぶ魔導装置と書架。
魔王、アル=レグナスは書簡に目を落としている。
「……男の聖女か」
低く響く声。
帝国領内で確認された、僕の行動報告だ。
報告官が一歩前に出る。
「陛下、男の聖女が帝国領内に現れました。
剣姫二名と共に行動している模様です」
アル=レグナスは静かに目を閉じる。
「“例外”が来たか」
魔王軍幹部たちは、息をひそめ静観する。
この事態の意味を、全員が理解していたからだ。
「教会は?」
冷静に尋ねるアル=レグナス。
「勇者を放った以降動きはありません」
魔王は、指先で書簡の端を軽く押す。
「……教会は、消すつもりだな」
「はい」
しかし即座に首を振る。
「いいや。まだ、排除は早い。
彼は誰かを導くために生まれた器だ」
報告官の手元に、静かに命令が伝えられる。
「幹部たちには命じる。
男の聖女――テイル・カトレアは排除せず、
影より監視、必要なら保護せよ。
干渉は最小限、教会より先に手を出すな」
幹部たちは頷き、沈黙のまま下がる。
王の意思の重さを、全員が理解していた。
「副作用の顕在、前線での戦闘能力……興味深い」
アル=レグナスは書簡を置き、遠く帝国の街道を見つめる。
「成長すれば、我が軍にとって利用価値があるだろう」
窓の外、街や森が広がる帝国領内。
魔王軍はまだ直接動かない。
だが、幹部たちが影から監視を開始することで、
僕たちの行動にはすでに目が向けられている――
その一歩は、知らぬうちに暗い未来の布石となっていた。




