――希望の光
帝国都市ヴァルハイム。
整然とした石畳と、高く伸びる建物群。
人の往来は多いが、
王国の首都よりもどこか実務的で、落ち着いている。
武器を持つ者も多いが、
威圧感はない。
――ここは、力を“管理する街”だ。
テイルは、
通りの中央で立ち止まった。
(……この街なら)
「顔、ちょっと楽になった?」
隣を歩くリディアが言う。
「うん……少し」
「帝国はね、
感情で聖女を扱わない」
「良くも悪くも、
“役割”として見る」
その言葉に、
テイルは頷いた。
⸻
通りの先に見えたのは、
大きな建物。
掲げられた看板には、
金色の紋章。
《冒険者ギルド・ヴァルハイム支部》
中に入ると、
明るい空間が広がっていた。
掲示板には依頼書。
受付のカウンターは整然。
冒険者同士の会話も、
どこか事務的で落ち着いている。
「思ってたより、
普通だね」
アリシアが小声で言う。
「王国の噂だと、
もっと荒れてるって聞いたけど」
「帝国は規律重視だから」
セレナが答えた。
「問題を起こした冒険者は、
即資格停止」
「だから、
自然と空気も落ち着くの」
テイルは、
少し安心した。
⸻
受付に進む。
「冒険者登録ですね。
個人ですか?
それともパーティ?」
「パーティで」
リディアが即答した。
受付嬢は、
淡々と続ける。
「では、
パーティ名をお願いします」
――沈黙。
全員が、
顔を見合わせた。
「……決めてなかった」
「今から決めよう」
アリシアが、
腕を組んで考え込む。
「剣姫が三人、
聖女が一人」
「じゃあ――
《剣と祈り》とか?」
「そのまんま過ぎる」
リディアが即却下。
セレナが、
静かに案を出す。
「《白翼》は?」
「綺麗だけど、
意味が分かりづらいかも」
「《黎明の剣》」
「聖女、
どこ行った」
アリシアが苦笑する。
「《守護者たち》は?」
「……重い」
一つ一つ、
案は出るが決め手に欠ける。
受付嬢が、
苦笑しながら言った。
「よろしければ、
“どういうパーティか”を
基準にされては?」
その言葉に、
テイルははっとした。
⸻
「……俺たち」
テイルは、
ゆっくり口を開く。
「強くなりたいけど、
最初から強いわけじゃない」
「それでも、
前に進きたい」
剣姫達が、
黙って聞いている。
「守られるだけじゃなくて、
一緒に立つ」
「それが、
俺の願い」
少し間を置いて、
リディアが言った。
「……希望、か」
「?」
「大げさじゃない」
「小さくても、
あっていい」
セレナが、
微笑んだ。
「光は、
遠くまで届く」
「剣が折れそうな時でも」
アリシアが、
指を鳴らす。
「じゃあ決まりじゃない?」
「《希望の光》」
受付嬢が、
端末に入力する。
「パーティ名、
《希望の光》で登録します」
金属音がして、
冒険者証が発行された。
テイルは、
それを受け取る。
(……ここからだ)
⸻
その日の午後。
街外れの訓練場。
整備された地面。
安全結界付き。
帝国らしく、
合理的だ。
「じゃ、
始めるわよ」
リディアが剣を抜く。
「今日の目的は一つ」
「聖女が、
“前に立つ”練習」
テイルは、
深く息を吸った。
「……お願いします」
剣姫達は、
容赦しない。
だが、
決して置いていかない。
倒れても、
手は伸ばされる。
声は、
常に届く距離。
夕暮れ時。
テイルは、
息を切らしながら立っていた。
震える足。
だが、逃げない。
「……まだやれる」
その姿を見て、
リディアは小さく笑った。
「ええ」
「それでいい」
小さな光。
だが、確かにそこにある。
希望の光。
それが、
このパーティの始まりだった。




