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あの、僕男ですが、何故か聖女スキルを獲得して剣姫達と魔王を倒す旅に出ます。  作者: 三科異邦
第二章 帝国編

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――幕間、ハインリヒ=クローヴァーの過去

帝国管理部・聖性研究区。


夜の研究区は、昼よりも静かだった。

灯りは最低限。

無駄な影すら、ここでは許されない。


ハインリヒ=クローヴァーは、

一人、書類棚の前に立っていた。


古い記録。

紙媒体の、帝国初期の資料。


指先で、

一つの背表紙をなぞる。


――「第七次辺境紛争・聖女運用記録」


彼が、

まだ若かった頃のものだ。



あの頃、

ハインリヒは前線技術士官だった。


研究者ではない。

戦場で“数字”を見る役だ。


被害率。

回復効率。

祝福の消耗曲線。


すべてを、

冷静に分析する。


「聖女は、

後方に配置するべきです」


若いハインリヒは、

何度もそう進言した。


だが、

聞き入れられなかった。


「前に出せ」


「祝福は近い方が効率がいい」


「聖女は、

守られる存在だ」


そうして、

一人の聖女が配置された。


名前は、

エルシア。


年は、

まだ十五だった。



彼女は、

本当に優秀な聖女だった。


回復は早く、

支援は正確。


そして何より、

自分が傷つくことを恐れなかった。


「大丈夫です」


「私がいますから」


その言葉を、

彼女は何度も口にした。


ハインリヒは、

それが嫌だった。


「君が前に出すぎだ」


「もっと下がれ」


「守られる前提で、

動いてはいけない」


エルシアは、

困ったように笑った。


「でも、

それが聖女ですから」


その言葉が、

今でも胸に残っている。



戦況が、

一気に悪化した日がある。


魔王軍の奇襲。

指揮系統の崩壊。


撤退命令が、

間に合わなかった。


「聖女を、

下げろ!」


ハインリヒは叫んだ。


だが、

エルシアは前に出た。


「まだ、

間に合います!」


祝福が、

戦場を覆う。


兵士たちは、

生き延びた。


だが――

彼女だけが、残った。


魔王軍は、

聖女を殺さない。


だから、

連れていった。



その後の記録は、

簡素だった。


「聖女エルシア

戦場にて行方不明」


「推定、

敵軍により確保」


それだけ。


ハインリヒは、

その瞬間に理解した。


聖女は、

守られる存在ではない。


“利用される存在”だ。


それを、

誰も教えていなかった。



それからの彼は、

研究に移った。


聖女を前に出さないため。

聖女が奪われないため。


数字を集め、

理論を積み上げ、

感情を削ぎ落とした。


誰にも、

同じ過ちを繰り返させないために。


だから――

あの時。


男性の聖女を見た時、

彼は一瞬、息を止めた。


(……同じだ)


守られる前提で動く。

自分が奪われる想定をしない。


「弱い」


あの言葉は、

評価ではない。


警告だった。


関係があるか、

ないかではない。


「聖女である以上、

同じだ」


ハインリヒは、

記録を閉じる。


棚に戻す前に、

小さく呟いた。


「……今度は」


「奪われる前に、

気づけ」


研究区の灯りが、

静かに落ちる。


帝国の夜は、

冷たく、合理的だ。


だがその奥で、

一人の男は今も――


聖女を“失った側”として、

同じ未来を拒み続けていた。

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