――日常、束の間の休息
帝国都市が、ついにその全貌を現した。
高く、無駄のない城壁。
装飾は最小限。
だが、どこにも破綻がない。
門は巨大で、分厚く、
閉じるためではなく、管理するための構造をしていた。
「……でっか」
剣火が素直に呟く。
門前には長い列ができているが、
騒ぎは一切ない。
兵士の指示は短く、的確で、感情がない。
「次」
「身分証」
「滞在目的」
質問は三つだけ。
だが――
視線は鋭い。
テイルの番になると、
兵士の動きが一瞬、止まった。
祝福の揺らぎ。
ごくわずかだが、
確実に感知されている。
「……確認する」
短く告げられ、
奥へと連絡が飛ぶ。
数分後。
「入城を許可する」
「ただし――」
兵士は、淡々と続けた。
「都市滞在中、
監視は継続される」
剣火が肩をすくめる。
「歓迎されてないな」
「最初から、
期待してないわ」
セレナが苦笑した。
⸻
都市の中は、
外から見た印象とは少し違っていた。
整然としている。
だが、冷たいわけではない。
市場は活気があり、
子供たちは普通に走り回っている。
「……意外」
アリシアが呟く。
「もっと、
堅苦しいかと思った」
「統制があるだけ」
リディアが言う。
「“生活”までは、
縛ってない」
建物は石造りで、
高さも揃っている。
派手さはないが、
住むための都市だ。
一行は、
帝国が用意した簡素な宿に通された。
豪華ではない。
だが、清潔で、丈夫で、
無駄がない。
「……これ、
全部規格品だな」
剣火がベッドを叩く。
「壊れにくい」
「替えが効く」
「帝国っぽいわね」
荷を下ろし、
ようやく一息つく。
テイルは、
窓から街を見下ろした。
人々は、
彼が聖女だとは知らない。
ただの、
少し珍しい旅人だ。
(……静かだ)
教会の視線も、
王国の噂も、
今は届かない。
だが――
完全に自由でもない。
⸻
夕方。
食堂に集まった一行は、
久しぶりに“戦いの話をしない時間”を過ごしていた。
「なあ、テイル」
剣火がパンをかじりながら言う。
「帝国って、
悪くないよな」
「うん」
テイルは頷く。
「でも――」
リディアが、静かに続ける。
「ここは、
逃げ場じゃない」
「居場所にするには、
代償が要る」
その言葉に、
誰も否定できなかった。
その時。
コンコン、と控えめなノック。
扉を開けると、
帝国軍の伝令兵が立っていた。
「明日、
管理部より呼び出し」
「聖女テイル殿、
および同行者全員」
「任意ですが――」
視線が、はっきりと意味を持つ。
「応じない選択肢は、
推奨されません」
扉が閉まる。
沈黙。
剣火が、乾いた笑いを漏らした。
「……日常、短かったな」
テイルは、
深く息を吸う。
それでも――
この一日があったからこそ、
明日、踏み出せる。
帝国都市の夜は、
静かに更けていった。




