――剣姫は、聖女を疑う
天啓の祭壇で起きた一件は、予想以上の速さで広まった。
男が聖女のスキルを得た。
それも、伝説級の完全顕現。
そんな話、信じろという方が無理だ。
当然、王国は動いた。
「――以上が、状況の説明だ」
重厚な扉の向こう。
王都騎士団詰所の一室で、僕は数名の騎士たちに囲まれていた。
「改めて名乗ろう。テイル・カトレアだな?」
「はい」
喉が渇く。
視線が痛い。
「男でありながら《聖女》のスキルを得た例は、過去に存在しない」
ですよね、知ってます。
「よって、お前は“異例中の異例”だ。危険性の判断がつくまで、単独行動は禁止とする」
「……つまり?」
「監視付きでの実地検証だ」
その言葉と同時に、扉が開いた。
「失礼します」
凛とした声。
入ってきたのは、長い銀髪を後ろで束ねた女性だった。
背は高く、無駄のない体躯。
腰には細身の剣。
立っているだけで、空気が引き締まる。
「こちらは、第三騎士団所属――剣姫、アリシア・レインハルト」
剣姫。
王国最年少でその称号を得た、実力者。
……聞いたことがある。
いや、誰でも知っている。
アリシアは僕を一瞥すると、淡々と言った。
「……この子が、問題の“聖女”?」
「“この子”はやめてください」
思わずツッコんでしまった。
一瞬、室内が静まる。
だがアリシアは表情を変えない。
「失礼。……だが正直に言う。私は信じていない」
「ですよね」
「聖女は女性のみが宿す力。男が得たという時点で、何かしらの歪みがあるはず」
正論すぎて、反論できない。
「だからこそ、私が同行する」
彼女はそう言って、剣の柄に手を置いた。
「万が一、君の力が暴走するなら――その場で斬る」
……さらっと物騒なこと言わないでほしい。
「では決まりだな」
騎士が咳払いをする。
「テイル・カトレアは、剣姫アリシアの任務に同行。
聖女スキルの有効性と安全性を確認する」
こうして僕は、思いがけず旅に出ることになった。
⸻
数日後。
王都を離れ、北方の魔物多発地帯へ向かう道中。
「……で?」
隣を歩くアリシアが、唐突に口を開いた。
「なに?」
「君、どうして剣士を目指している?」
少し意外な質問だった。
「剣しかなかったから、かな」
正確には、剣しか“信じられるもの”がなかった。
「支援役として生きる気は?」
「ない。……でも、必要ならやる」
アリシアは足を止め、こちらを見た。
「その覚悟が本物なら、試してみよう」
彼女は前方を指差す。
そこには、魔物の群れ。
数は多く、正面から挑むには危険な規模だった。
「支援を頼む。聖女」
心臓が跳ねる。
「……了解」
初めて、意識的にスキルを発動する。
《祝福付与》《能力強化》《精神安定》
光が、アリシアを包んだ。
「――っ!?」
彼女の目が見開かれる。
次の瞬間、剣が閃いた。
一太刀。
それだけで、魔物がまとめて吹き飛ぶ。
「……冗談でしょう」
剣姫は、息を整えながら僕を見る。
「あなた……これは」
その視線には、疑念だけでなく――
確かな驚愕が混じっていた。
男の聖女。
ありえない存在。
だがその力は、本物だった。
そしてこの旅は、まだ始まったばかりである。
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