――排除されるべき存在と、排除しない理由
交易都市レイヴァルト郊外。
街道を外れた林道は、昼でも薄暗く、
湿った土と枯葉の匂いが漂っていた。
「……嫌な感じがする」
剣火が、周囲を警戒しながら呟く。
その直後。
「助けてくれ!」
林の奥から、行商人が転げるように飛び出してきた。
「魔物だ!
道を塞がれて……!」
状況は、即座に理解できた。
低級魔物。
だが地形が悪い。
「行くよ!」
剣姫たちが前に出る。
テイルは、深く息を吸った。
祝福が流れる。
剣が軽くなる。
動きが冴える。
――その瞬間。
空気が、はっきりと変わった。
魔物の動きが止まる。
次の瞬間、
林道の奥から、一人の男が現れた。
白い外套。
聖剣。
完璧な姿勢。
「……下がってください」
感情のない声。
「ここから先は、
教会の管理領域です」
剣姫たちが、即座に構える。
「誰だ」
男は、迷いなく名乗った。
「アレクス・ヴァレンティア」
「神託により選ばれし、
勇者です」
その名に、
リディアの背筋が凍る。
(……早すぎる)
アレクスは、魔物を見る。
一歩、踏み出す。
剣を振るう。
――一閃。
魔物は、存在を断ち切られた。
残る魔物も、同様。
剣を納め、
ようやく人を見る。
そして――
テイルを見た。
(確認完了)
(対象:聖女テイル・カトレア)
(排除対象)
その判断は、即座に下された。
だが。
次の処理が、進まない。
(……今、ここで?)
テイルは、敵意を向けていない。
街の人間を守っている。
逃げる素振りもない。
(排除は必要)
(だが、
これは“正義”として成立しない)
アレクスは、一歩近づいた。
「あなたが、
聖女テイル・カトレアですね」
剣姫たちが、前に出る。
「近づくな!」
「ここで戦う気か!」
「いいえ」
アレクスは、即答した。
「戦闘は、
最適ではありません」
その言葉に、
剣姫たちが一瞬、戸惑う。
「あなたは、
間違った存在です」
テイルの胸が、微かに痛んだ。
「男でありながら、
聖女の祝福を行使する」
「定義外」
「矯正、もしくは――
排除が必要です」
剣火が、声を荒げる。
「それが理由で、人を消すのか!」
「はい」
即答。
「定義不能な存在は、
世界を歪めます」
「……でも」
テイルは、静かに言った。
「今、君は僕を斬らない」
アレクスの思考が、止まる。
「なぜ?」
沈黙。
彼は、答えを探す。
(排除は正しい)
(だが、この場で斬れば――
“勇者”が壊れる)
「……今は」
「排除を実行する
条件が整っていません」
それは、
彼にとって精一杯の誠実さだった。
「条件?」
「世界が、
あなたを“異物”として
理解した時です」
テイルは、息を呑む。
アレクスは、踵を返す。
「次に会う時は――」
言葉を探し、
結局こう言った。
「排除が、
正義として成立する時です」
その背中は、
迷いなく、まっすぐだった。
静寂。
剣火が、震える声で言う。
「……あいつ」
「最初から、
あんたを消すつもりだった」
テイルは、頷いた。
「うん」
「でも――
今じゃなかった」
リディアは、強く拳を握る。
「それが、
一番危険です」
「彼は、
“正しい形で消す”まで
諦めない」
遠く。
アレクスは、胸を押さえていた。
(排除対象)
(延期)
(……なぜ、
これほど不快なのか)
それが、
彼の中で初めて生まれた
処理不能な感覚だった。




