――観測される聖女
王国北方・国境地帯。
夜営地。
焚き火を囲み、
テイルたちは休息を取っていた。
「……教会、完全に本気だね」
剣火が、低く言う。
「新勇者を掲げて、
一気に世論を固めてきた」
リディアは、火を見つめながら頷く。
「彼らは、
“分かりやすい正義”を作るのが上手い」
「複雑な真実より、
単純な英雄」
テイルは、少し考えてから言った。
「……あの勇者」
「本当に、自分で選んでるのかな」
その言葉に、
リディアは一瞬だけ、黙った。
「……選ばされている」
「そして、
それを疑う術を奪われている」
その時。
一人の剣姫が、周囲を警戒しながら言う。
「リディア」
「帝国側の動き、
どうなってる?」
リディアは、懐から文書を取り出す。
「直接の接触は、まだ」
「ですが――
観測は、されています」
テイルが、顔を上げる。
「観測?」
「ええ」
「帝国情報院は、
すでにあなたを
“戦略級支援個体”として分類している」
剣火が、顔をしかめる。
「……兵器扱いか」
「正確には」
リディアは、淡々と告げる。
「“制御できれば、兵器以上”」
「制御できなければ、
危険因子」
焚き火が、爆ぜる。
テイルは、拳を握った。
(教会は、
物語に閉じ込めようとする)
(帝国は、
数値で測ろうとする)
「……どっちも、
僕を見てない」
リディアは、静かに頷いた。
「だからこそ」
「今は、
どこにも属さないことが、
最大の防御です」
遠く。
帝国の方角に、
雷光が走った。
それはまだ、
呼び声ではない。
ただの――
“興味”。
だが確実に、
世界はテイルを中心に
動き始めていた。




