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あの、僕男ですが、何故か聖女スキルを獲得して剣姫達と魔王を倒す旅に出ます。  作者: 三科異邦
第一章 聖女(男)になりました。

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――黒き将、現る

教会前広場。


崩れた結界石の向こう、

空間が――歪んだ。


まるで夜そのものが、

ゆっくりと裂けていくように。


「……来る」


アリシアが、低く呟く。


次の瞬間、

音もなく影が地に落ちた。


衝撃はない。

だが、空気だけが沈む。


呼吸が、重くなる。


「これは……」


セレナが、思わず一歩引いた。


敵意は感じない。

殺気もない。


それなのに――

圧がある。


黒い外套を纏った魔族の男が、

石畳の中央に立っていた。


背は高く、姿勢は崩れない。

鎧は実戦用だが、無駄な装飾はない。


歴戦――

それも、指揮官のそれ。


周囲に、次々と魔王軍の兵が姿を現す。

だが誰一人、剣を抜かない。


整然と、円を描くように配置される。


(……包囲)


(でも――)


(斬る気が、ない)


「王国騎士団剣姫」


男が、初めて口を開いた。


低く、よく通る声。


「無用な交戦は望まない」


「だが、警戒は理解する」


彼は、ゆっくりと両手を外套の外へ出した。

――武器を持っていないことを、明確に示す動作。


「この場における責任者は?」


アリシアが、一歩前に出る。


「私だ」


「王国騎士団第三隊所属、剣姫アリシア」


男は、短く頷いた。


「礼を言う」


その所作は、あまりにも騎士的だった。


一瞬、場の全員が言葉を失う。


「――改めて」


男は、胸に手を当て、はっきりと名乗った。


「我が名は

ヴァルナ・グラディオス」


「魔王軍第七軍団将」


「本日は、侵攻ではない」


「確認と通達のため、参上した」


その瞬間、

周囲の魔王軍兵が、一斉に膝をついた。


音が揃う。


それだけで、

彼がどれほどの地位にあるかが分かる。


「……通達?」


カグヤが、鼻で笑う。


「随分と大仰だね」


ヴァルナは、視線を彼女に向ける。


「紅蓮の剣姫、カグヤ・イグニス」


「あなたの戦いぶりは、観測済みだ」


「守る剣だな」


カグヤの眉が、わずかに動く。


「……気に入らない」


「評価ではない」


ヴァルナは、静かに否定する。


「事実だ」


そして――

ゆっくりと、視線が動く。


剣姫たちを越えて。


一点に、定まる。


「……」


テイルは、はっきりと理解した。


(――ああ)


(この人は、最初から)


(僕を、見ていた)


「聖女テイル・カトレア」


名を呼ばれた瞬間、

胸の奥で、聖女スキルが反応する。


だが、敵意ではない。


「魔王陛下より、言葉を預かっている」


ヴァルナは、はっきりと告げた。


「――あなたは、まだ壊れていない」


教会側が、ざわつく。


「それは、我々にとって重要だ」


「そして――」


「教会が、あなたを切り捨てたことも」


「すでに、把握している」


空気が、冷えた。


「よって、通達する」


ヴァルナは、一歩だけ前に出る。


剣姫たちは、動かない。


動けない。


「魔王軍は、

あなたに保護という選択肢を提示する」


「拒否も、沈黙も、受け入れる」


「だが――」


その声が、わずかに低くなる。


「あなたの意思を、

誰かが踏みにじることは、許さない」


完全な沈黙。


ヴァルナは、最後に一礼した。


「以上だ」


「我々は、退く」


「次に会う時は――

あなたの答えを聞かせてほしい」


影が、再び歪む。


魔王軍は、来た時と同じように、

秩序を保ったまま消えた。


残されたのは、

教会の白と、王国の剣と、

そして――選択を迫られた聖女だけだった。

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