――守る剣と、従う剣
教会中庭。
魔王軍が去った後の空気は、
戦場よりも重かった。
「……で?」
最初に沈黙を破ったのは、カグヤだった。
「誰が偉い人?」
「……は?」
セレナが一瞬、言葉に詰まる。
「ここを仕切ってるやつ。
出てきなよ。話がある」
その態度に、アリシアの眉が動いた。
「あなた、ここがどこか分かっているの?」
「分かってるから聞いてる」
カグヤは肩をすくめる。
「教会でしょ。
世界一“責任を取らない”組織」
――空気が、凍る。
「……訂正しなさい」
アリシアの声は低い。
「私たちは、秩序を守るために剣を振るっている」
「命令があって、役割がある」
「感情で動くあなたとは違う」
「へえ」
カグヤは、面白そうに笑った。
「じゃあ聞くけどさ」
彼女は一歩、前に出る。
「さっきの襲撃、
“想定内”だった?」
「……」
「結界は破られ、民間人が怯えて、
聖女は最前線に置かれてた」
「それでも“想定通り”?」
セレナが、歯噛みする。
「……結果的に、被害は最小限よ」
「結果論だ」
カグヤは即答した。
「守る剣ってのはね、
結果じゃなくて、覚悟の話なんだよ」
彼女は、テイルを見る。
「この子、守る気で前に立ってた」
「でも――」
視線を、既存の剣姫たちへ戻す。
「あんたたちは、
“命令があれば守る”顔をしてる」
「それ、守ってるんじゃない」
「従ってるだけ」
アリシアの手が、剣にかかる。
「……それ以上は、侮辱だ」
「違う」
カグヤは、剣に手を伸ばさない。
「忠告だよ」
「教会は――
失敗したら、必ず誰かを切る」
その言葉に、テイルの胸がざわついた。
⸻
その頃、教会本部・上層会議室。
「今回の件は、前例のない失態です」
重厚な机を囲み、聖職者たちが並ぶ。
「魔王軍が聖都に侵入した事実は重い」
「民心への影響も大きい」
「……責任の所在を、明確にすべきだ」
一人が、資料を机に置く。
そこには、テイルの記録。
性別:男性
聖女スキル顕現
教会式訓練との相性:極めて悪い
魔王軍からの観測対象
「――彼です」
「男の聖女という、異常例」
「彼がいたから、魔王軍を引き寄せた」
「……便利な因果関係だな」
別の聖職者が、冷たく言う。
「世界は、分かりやすい理由を欲しがる」
「“聖女の異端が災いを招いた”」
「それで、納得する」
沈黙。
やがて、誰かが言った。
「処遇は?」
「正式な“保護”を解除する」
「教会の管理下から外す、という名目で」
「……つまり?」
「切り捨てです」
誰も、反対しなかった。
⸻
中庭。
リディアが、急ぎ足で戻ってくる。
「……テイル」
彼女の顔色を見て、全員が察した。
「教会が――」
「あなたの保護を、打ち切る決定が出ました」
静寂。
「理由は?」
テイルが、静かに聞く。
「……今回の襲撃の“遠因”」
「あなたがいたから、魔王軍が動いたと」
セレナが声を荒げる。
「そんなの、後付けじゃない!」
「分かっています」
リディアは、唇を噛む。
「でも……止められなかった」
その瞬間。
「ほらね」
カグヤが、低く言った。
「言った通りでしょ」
彼女は、テイルの前に立つ。
「選びな」
「教会に残って、
次の失敗の責任を押し付けられるか」
「それとも――」
剣姫としての顔で、言う。
「自分を守ろうとする連中と、
一緒に進むか」
既存の剣姫たちは、黙っていた。
アリシアが、ゆっくりと口を開く。
「……教会の命令は、絶対だ」
だが。
「それでも」
彼女は、テイルを見る。
「あなたを“間違い”だとは、思わない」
セレナも、拳を握る。
「……選ぶのは、あなただよ」
世界は、答えを迫っていた。
守る剣か。
従う剣か。
切り捨てる教会か。
そして、男の聖女は――
まだ、何も言わなかった。




