表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの、僕男ですが、何故か聖女スキルを獲得して剣姫達と魔王を倒す旅に出ます。  作者: 三科異邦
第一章 聖女(男)になりました。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/45

――幕間Ⅱ 灰色の聖女

魔王城、最下層。


光の届かない回廊の奥に、その部屋はある。


「……報告は以上です」


魔族の兵が一礼して去ると、

室内には静寂だけが残った。


中央に立つ少女――いや、かつて少女だった存在。


銀白の髪。

人族だった頃の面影を残す顔立ち。


だが、その背には――

黒く透ける、薄い魔翼が生えていた。


「聖女番号、第三七式」


魔王アル=レグナスが、低く名を呼ぶ。


「現状を」


少女は、ゆっくりと顔を上げる。


その瞳は、無色だった。


「……問題、ありません」


感情の抑揚が、一切ない声。


「魔力循環、安定。

祝福変換率、基準値内」


「感情波形?」


「……観測不能」


魔王は、わずかに目を伏せた。


「そうか」


彼女は、かつて聖女リュシアと呼ばれていた。


教会に選ばれ、

徹底した教会式訓練を受け、

“完璧な器”として完成された存在。


その代償として――

彼女は、何も感じなくなった。


「……教会は、彼女を失敗作として処分しようとした」


隣に立つ将ヴァルナが、静かに言う。


「感情を完全に削ぎ落とした結果、

祝福が“自動発動装置”になった」


「戦場では優秀だった」


「だが、自律判断ができない」


「聖女としては、致命的だ」


リュシアは、二人の会話を聞いていないようだった。


「……命令を」


淡々と、そう言う。


魔王は、首を横に振った。


「今日はいい」


「下がっていい」


「……了解」


彼女は踵を返し、

機械のような動作で歩き出す。


その背を見ながら、魔王は呟いた。


「……これが、教会の“完成形”だ」


「空っぽの聖女」


ヴァルナが、苦く笑う。


「人族は、よく我々を魔物と呼びますが」


「……どちらが、よほど残酷か」



別室。


魔導観測室にて。


若い魔族の研究官が、記録を読み上げる。


「元人族・聖女リュシア」


「教会により“神意乖離”の判定」


「粛清対象」


「その直前、我々が保護」


「肉体は人族規格を逸脱。

魔力過剰循環により――

半魔族化」


画面に、データが浮かぶ。


「……感情機能、消失」


「再生不可」


沈黙。


「ですが」


研究官は、一点を指差す。


「祝福出力は、歴代聖女中最高値」


「……感情を失った結果、

純粋な“力”だけが残りました」


「皮肉ですね」


その言葉に、魔王は答えない。


代わりに、別の資料を開く。


【新規聖女顕現報告】

性別:男性

感情反応:極めて強い

教会式訓練下にて、出力低下


「……」


魔王の指が止まる。


「正反対、か」


「はい」


ヴァルナが頷く。


「彼は、感情があるから強い」


「彼女は、感情を失ったから強い」


二つの聖女。


二つの“正しさ”。


「……教会は、また同じ過ちを繰り返す」


魔王は、静かに言った。


「だからこそ――

彼は、守らなければならない」



夜。


回廊の奥。


リュシアは、窓のない部屋で立ち止まった。


理由はない。


ただ、胸の奥に――

微細な揺らぎ。


「……?」


彼女は、自分の胸に手を当てる。


何も、感じない。


感じないはず、なのに。


(……聖女、顕現……)


観測装置から漏れ聞こえた言葉。


男。

感情が強い。

祝福が不安定。


「……非効率」


そう、口に出した。


だが――

その言葉は、なぜか少し、掠れていた。


「……理解、不能」


感情を失った元聖女。


魔族となった存在。


彼女はまだ知らない。


その“理解不能”こそが、

再び心を得る、最初の兆しであることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ