それはまるでオルゴールのような
お気に入りの手回しのオルゴール。
保護猫くりかのこと一緒に、その優しい音色を聴いて癒される日々。
ところが、12月に入ってすぐものすごい耳鳴りとめまいに襲われ立てなくなり、突然右耳が聞こえなくなった。緊急で病院に行き、そのまま入院。突発性難聴だった。
入院して一週間、めまい、耳鳴り、吐き気は治っていないが、このまま入院を続けると筋力が落ちて日常生活に支障がでるということで、退院することになった。
不安でたまらなかったけど、くりかのこに会いたい気持ちがその不安を少し和らげてくれた。
なんとか家に辿り着くと、くりかのこは、いつもお迎えしてくれる場所にちょこんと座って待っていた。声をかけると駆け寄ってきた。きっと可愛い声で鳴いているんだろうな。右耳の耳鳴りが大きい。その影響から左耳にも違和感がある。左耳が聞こえているからといって音が聞き取れるわけではなかった。
めまいと耳鳴りが酷くてほぼ動けず、辛い日々が続いた。そんな時でもくりかのこは一緒に寝て、そばにいてくれた。
退院して1週間経ったが、夜中に何度も回転性めまいに襲われ、そのたびに静かにそばにいてくれるくりかのこを、両手でぎゅっとすると少し落ち着いた。いつものようにゴロゴロと喉を鳴らす顔をしている。聞こえない事実と向き合うのが怖くて躊躇したけれど、くりかのこに右耳をそっと近づけてみた。やっぱり音は聞こえなかった。
めまいで目が覚める度、ぎゅっとする。退院して2週間経った頃、明け方めまいで目が覚めた。そしてまた、いつものようにぎゅっとした。すると、かすかだけれど、確かにゴロゴロと右耳から音が聞こえたのだ。あれから初めて、耳鳴りではない音が聞こえて、嬉しくて、確かめるように何度もゴロゴロの音を聞いた。
「聞こえる……」
ぎゅっとしている間、鳴り止まないゴロゴロ音。それがまるであの優しいオルゴールのように感じて、ぱっと名前が思い浮かんだ。それは面白いほどぴったりで、笑ってしまった。難聴になってから初めて笑うことができた。
まだ、にゃーという高い音は聞こえない。
お気に入りのオルゴールの音色も聞こえない。
低い優しいゴロゴロはかすかに聴こえる。
「低い音から徐々に回復します。」という医師の言葉を、くりかのこのゴロゴロが思い出させてくれた。
くりかのこが、聴力が戻ると信じる力をくれた。
今日もまた、私の隣で「くりかのゴロゴール」を奏でてくれている。




