「名前が違うなら仕方ないですね」
目の前に拡がる極光はそのまま私の身を焼き滅ぼしに掛かってきました。
咄嗟に突き出した両の手が凄まじく痛い……痛みを超えて灼熱感しかもはや感じられませんね。
極光の照射は数秒程でしたが、受けたダメージは甚大なものです。
炭化した腕は動かすだけで苦痛を感じ、その再生にまたなけなしの"サモンエナジー"を投下しなければいけないので泣きっ面に蜂とはこの事でしょう。
幸いにも極光は私だけを狙ったもののようで巻き込まれた哀れな被害者は古城に乱立する黒い結晶ぐらいです。
そして、寒々とした金色の満月を背に私を見下ろすのは私の協力者となった筈のジュンくんです。
「何のつもりですか、ジュンくん」
「…………」
極光を放ったのは彼の隣に立つ【アーサーI】
ジュンくんが冷ややかな目のまま手を上げると【アーサーI】が彼の"ギアスディスク"の中へと帰っていきます。
「一度だけならば誤射……と思えたら良いのですがそうではないのですよね?ねぇ、何故です?何故約束を……契約を破った?」
契約は絶対です……それを一方的に反故されたのですから、もっと気性の荒い者ならば怒り狂って魂の一片に至るまで消しに掛かります。
しかし、私は比較的穏健な存在です……理由によっては半殺しで我慢しましょう。
私の言葉に答えるのにたっぷり数分程黙り込んでいたジュンくんの口が開きます。
「約束をしたのはジュンという名前の男性だ。私の本当の名前ではない」
「……そう来ましたか。名前が違うなら仕方ないですね……などと言うと思っていたのですか?」
苛立ち紛れに足元に落ちていた結晶の欠片を踏み潰す。
そのまま"サモンエナジー"へと還るソレを取り込めば炭化していた腕も元に戻り、ダメージは回復しきったと言える。
そのまま奴に向けて指を向けた。
「選んで下さい、誅伐か決闘か」
「言うまでもない」
"ギアスディスク"を構える姿に笑みを浮かべます……どうせ倒してしまうのならば楽しい方が良いですからね。
ジュンくんとしても不意打ちで叩き込んだ最大火力を防がれたのですから、正面からの戦いよりも"ギアスファイト"による勝負に持ち込めばまだ勝ちの目が有ると考えたのでしょう。
まあ、私が勝ちますが。
"ギアスディスク"を構える彼とは異なり、私の近くにふわりと浮かぶデッキ……今の私には"ギアスディスク"は枷としかなりませんからね。
「「"ギアスファイト"レディセット!!」」
ユギト【誘うは深淵の果て】
VS
■■ ■■【黒曜石は穿てない】
彼の背後に立つのは私に手酷い一撃を与えた【アーサーI】
対する私の背後には誰もいません。
「"ギアスモンスター"はどうした……?」
「《《必要ありません》》」
デッキから飛び出す一枚のカード、それを中空に浮かべて発動を宣言する。
「約定カード【強壮なる使者】をゲーム開始前に発動します」
【強壮なる使者】
黒 約定・神
CL:10
このカードの効果は無効にされず、破棄されない。
約定:このカードを発動しているプレイヤーは"ギアスモンスター"をセット出来ない代わりにターン開始時にデッキからカードを一枚選び手札に加える事が出来る。また、黒を含むカードをプレイする時にそのコストを2少ないものとして扱える。
コスト:8以上のモンスターが場に出る度にこのカードにCカウンターを一つ乗せる。
このカードにCカウンターが8以上あるターンの初めに発動する。このカードを裏面に引っくり返す。
CL:自分のターンで数えて10ターン目の初めに発動する。自分は手札を全て破棄し、このカードを裏面に引っくり返す。
くるりと私の周りを回った後に体内に溶け込むように消えたカード……心臓のように脈打つ感覚が擽ったくて思わず笑ってしまいます。
「約定カード……!?」
「知りませんか?まあ、世界に六枚しか存在しませんからね……使用したプレイヤーにルールを追加するのが約定カードです。この【強壮なる使者】の効果により、私は"ギアスモンスター"を置く権利を失う代わりにターン開始時に好きなカードを一枚手札に加える権利と黒のカードのコストを2減らす事が出来る権利を得たのです」
何かを差し出す代わりに、恩恵を得る。ギブアンドテイクの契約がこの約定カードの本質です。
「ルール改変効果だと……"ギアスモンスター"が出せないとはいえめちゃくちゃな効果だな」
「ふふ……もちろん、契約には期限が有ります。10ターン経過するか契約を満了すればこのカードは効果を失います」
『その時がキミの最後ですが』という言葉を飲み込み、いつものように笑みを浮かべます。
「さて、今度こそ始めましょうか」
「「スタートアップ!!」」
「先行はいただきます。約定アビリティにより、デッキから【邪聖天ベリアル】を手札に加えます。そして、ドローフェイズをスキップしてカウンターブーストです」
ユギト 第一ターン
ライフ:10
手札:6 ターンカウンター:2
約定【強壮なる使者】
実質的なカウンターブーストのデメリットの帳消し、ルールブレイカーなこの約定によって私のデッキは弱点が一つ減りました。
そのまま【ベリアル】を出しても構いませんが……こちらの動きをしますか。
「コスト1扱いで【冒涜する殉教者】をサモンします」
【冒涜する殉教者】
白・黒 コスト:3 信者・犠牲
A:0 B:3
このモンスターが破棄された時、デッキの上から三枚まで見て、その内の一枚を手札に加え、一枚を墓地に破棄し、一枚をデッキの一番下に送る。
自分の場に使徒モンスターがいる場合、デッキの一番下に送らずに一番上に置いても良い。
元は白かったであろう血や汚物に汚れたローブらしき物を身に纏った集団が訳の分からない叫びを上げながら現れます。
その穢らわしい姿に思わず眉を顰めるジュンくん。
私が右手を差し出せば集団の中のリーダー格と思わしき人物は手の甲へと唇を落とします。
「ゾッとする光景だな……」
「そう言わないで下さい……彼らは昔から私のデッキを支えてくれていた子達なのですから。さあ、続けましょう。コストを減らし、0扱いで【堕落の黒鴉】をサモン」
【堕落の黒鴉】
白・黒 コスト:2 使徒・悪魔
A:0 B:1
一ターンに一度、自分の場のモンスター一体を破棄して発動出来る。
デッキから悪魔モンスター一体をデッキの一番上に置く。
真っ黒なカラスが舞い降りて殉教者のリーダー格の肩へと止まります。
そしてその耳元へと何かを囁けば、リーダーは集団を引き連れて真っ直ぐに歩きます……その先の地面には大きな亀裂が開いており、一人また一人と殉教者達が飲み込まれます。
最後の一人、リーダー格が飲み込まれる寸前にカラスが空へと飛び出し……しばらくしてから私のデッキの一番上にカードを一枚乗せてきます。
「【黒鴉】の効果により、【殉教者】を破棄する事でデッキの一番上に【邪聖天の嫉妬レヴィアタン】を置きます。そして【殉教者】の効果を発動します」
亀裂から身の毛のよだつ唸り声が響きます。その振動によって私のデッキの上のカード三枚が飛び出します。
「デッキの上から三枚を見て、一枚を手札に加え、一枚を墓地へ破棄し、一枚をデッキの一番下に送ります……【邪聖天の嫉妬レヴィアタン】を墓地へ送り、【神聖なる使徒ザドキエル】を手札に加え、【天魔襲来】をデッキの一番下に送ります」
【天魔襲来】はベリアルでサーチが効くのでデッキの上に置く必要はありません。
初動としては上々と言えるものでしょう。
「これでターン終了です……さあ、私を楽しませて下さいね、ジュンくん」
カード紹介
【強壮なる使者】
世界に六枚だけ存在するカード種、約定カードの一枚。
使用したプレイヤーへルール改変のメリットの代わりに、デメリットを与えるのは共通効果。
Cカウンターを貯めて、裏面を出した時に真の姿が現れる。




