「招かれたって何に……?」
──時は少し遡る。
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アタシ達が西岡さんと別れてから、ようやく大通りを行き交う人が少しづつ減っていっていた。
皇導さん達は別に買う物が有るからと言っている。
「ほんなら、兄ちゃん達ともお別れやなー」
「鏡富市に帰ったら今度は皇導さんともファイトしたいっぺー会ったら絶対やろうっぺなー約束っぺなー」
「忙しくなければな」
「……また、会おう」
そして残ったのはアタシたち三人。
このまま一度帰っても良かったけど、照海さんの勧めで伏見稲荷という所に観光に行く事になった。
「修行の時は仕方ないけども、百火を置いて観光は流石に……」
「ウチの住まいと伏見稲荷結構近いし、起きたら"アポロ"から連絡来るし直ぐに合流したらええ。調子良ければウチらが伏見稲荷に着いた頃には起きてくるやろうしな」
「百火くん、大丈夫だっぺ……?」
「大丈夫や大丈夫。アポロはまあ、頼りにならん事も多いけどアイツが何も言うてこーへんうちはなんも心配あらへん」
信用してるんだかしてないんだか分からないけども、そのまま押し切られてアタシ達は車で移動する事に。
殆ど外国の人ばかりのその町は辺りに赤い提灯や狐の書かれた垂れ幕があったりして何だかお祭りみたいね……香ばしい匂いが辺りに漂っていて、店先で何かを串に刺して焼いているのが見える。
「照海さん、アレ何だっぺ?美味しそうっぺなぁ〜」
「アレな、スズメや」
「スズメぇ!!?あのちゅんちゅん鳴いてるスズメっぺか!?」
スズメと聞いた瞬間に、すごい勢いで翠子さんが引いているのが分かる……アタシもちょっとスズメを焼いているのは無理ね。
「スズメってな、農作物食い散らかすんや。伏見稲荷は農業の神様祀っとるから農作物食い散らかす悪い鳥は逆に食っちまおうって事なんや」
「確かにスズメにはうちのおっとうにおっかぁ悩まされてたけんども……流石に食べはしないっぺな」
「ガッハッハッ、まあ食べたら美味しいで。いるか?」
アタシと翠子さんの動きがシンクロして同じように首を横に振る。
それがおかしいのかケラケラ笑っていた照海さんだったが、ふと笑いを止めると遠くを見る目で山の方を見つめた。
「…………侵入者、またかいな」
「照海さん?」
「ゴメンな。ちょっとここら辺で待っといてーな、直ぐに戻るさかい!」
そう言い残すとすごい勢いで走っていった照海さんをアタシと翠子さんはポカンとした顔で見送った。
「どうしたんだっぺな照海さん……」
「分かんないけど……どうする?待っておく?」
お小遣いはまだ有るから買い食いとかをして時間を潰す事は出来るけど、何だか胸の奥がざわめく。
照海さんが見つめていた山の方をアタシも見ると、一瞬だけその山が雪に覆われているように見えた。驚いて目を擦ってもう一度見てみるとそんな事はなくてただの山がそこにはあった。
「今のって……?」
「……なんでまた貴様らがここにいるんだ」
声を掛けられたから振り返ればそこには先ほど別れたはずの二人が……なんで皇導さんと神牙さんがここに?
「あれー?また会ったっぺ〜」
「お二人も観光……ですか?」
渋い顔をしていた皇導さんは少し考えてからアタシの問い掛けに答えてくる。
「はく……知り合いと連絡がつかなくてな、この近辺に来たのは間違いないんだが……」
「……心配だから、俺たちは……ここに来た」
「それは心配ですよね……もし、良かったら探すのアタシ手伝いたいです!」
「わたすもお手伝いするっぺ!四人寄ればきっとすっごい文殊の知恵になるっぺな!」
「それはそういうことわざではないが……いや、今は素直に手伝ってもらおう。よろしく頼む」
そう言って頭を下げてくる皇導さんにアタシは目を白黒させてしまう……なんというか、あんまり話した事は無いけれどもこの人が他の人に頭を下げるイメージがあまりない。
「ちょ、ちょっと頭上げて下さいよ!?」
「変な物食べたっぺ……?」
「食っとらんわ!!」
「……そういえば、朝から皇導さん……何も食べていない…?」
「それはダメっぺ!あそこのスズメ焼き食べるっぺな!」
「要らんわ!!何食わせようとしてるんだこの小娘は!!?」
ああ、良かった。イメージ通りに戻ったわ……
ぷりぷりと怒っている皇導さんが先に行くのを『待ってっぺ〜』と翠子さんが追いかけていく。
「……すまない、あの人はその……悪い人では無いんだ。少し……熱くなりやすい」
追い掛けるアタシに神牙さんがそう話し掛けてくる……あの性格を《《少し》》熱くなりやすいと称するのは無理があると思うのだけれど……まあ、この人が言うなら悪い人ではないのは本当なんでしょうね……性格で大分損してるけど。
「そんなお二人が探してる人って……職場の同僚さんなんですか?」
「同僚と……上司だ。同僚は……頭が良くて、上司は……恩人だ」
しみじみと言う恩人という単語に色んな感情が篭っている気がした。
その人も良い人なんだと思う……だから、この人たちは直ぐに探しに来たのね。なら、早く見つけて安心させてあげなきゃ!
しばらく手分けして探したのだけれど、町の方にはそれらしい人はいなくて……大きな鳥居の前で合流した時には皆も同じ感じだったみたい。
「後探していないのは……山の方か」
「こっちから行けそうっ……」
変に声が途切れて、ふと見れば翠子さんの姿が消えていた。大鳥居の方に歩いていたのに忽然と姿を消したのだ。
「翠子さん!?どこに……!!」
「っ待て!!」
彼女の姿を探して大鳥居に走るアタシを追って皇導さんと神牙さんも駆け出す。
大鳥居をくぐった瞬間、耳元で鈴の音がなった気がした。
気がつけば辺りから観光客達が消えていて、目の前には呆然と立ち尽くす翠子さんがいた。
「翠子さん!!」
「み、水兎ちゃん……ここどこだっペ〜なんか夜になってるし他の人いなくなるしで心細かったっぺ〜!!」
涙目で抱きついてくる翠子さんをしっかりと抱き締めて宥めるアタシ……翠子さんが見つかって良かったけれどもこれはどういうことなのかしら。
「……出られません、皇導さん」
「この結界に取り込まれたか……?もしや白掟様も……?よし、行くぞ神牙!!!」
何かを呟いていた皇導さんがカッと目を見開いて山に向かって走り出す……って、こんな所で単独行動は危ないわよ!?
慌てて追い掛けるアタシ達はそのまま参道を走っていく。
どこまで走っても人がいない……有名な千本鳥居があるゾーンも走っていく中でアタシはいくら走ってもちっとも疲れない事に気づいた。
でも、皇導さんと神牙さんは違うようで山の途中で完全にバテてへたりこんでいる皇導さんを見つけた時には神牙さんの方も息を切らしていた。
「……すごい、な。体力が……よく、持つ…なんて」
「いつもはそんな事無いのですけど……何だか、ここだと元気が湧いてくるんです」
ゼィゼィヒューヒューと死にそうな呼吸をしていた皇導さんがアタシ達の方を見ると、怪訝そうに顔を歪めていた。
「……おい…あの……糸目…………どこ…行った?」
「糸目って……あれ?翠子さん……?」
振り返っても誰もいない。
神牙さんに聞いてもアタシの前を走っている物と思っていたという返事が返ってくる……どういう事なの?
「ミイラ取りがミイラか……または、あの糸目の少女が招かれたのか……」
「招かれたって何に……?」
「……この結界空間の主にだろう。そこは知らん」
これ以上、迷子を増やさない為にアタシ達はお互いの手を握って歩く事にしたの……横一列だから普通だったら他の人の迷惑になるけど、仕方ないわよね。緊急事態なんだから。
皇導さん、アタシ、神牙さんの並びで歩いてしばらくすると、少し開けた広場のような場所に着いたの。そこで途方に暮れたように手提げ鞄を抱き締めたままベンチに座り込んでいる小さな影を見つける。
「誰かいる……翠子さん、じゃないわね」
「惹琴!!!!」
小さな影に向かって、恐らくは人名を叫ぶ皇導さん。
その声に弾かれたように頭を上げてこちらを見るのは……黒い髪の少し陰気そうな、多分アタシ達より年下の少年だ。
心細かったのか手提げ鞄を強く抱き締めたままポロポロと涙を零し始めている……まさかあの子が探していた同僚か上司の人?
「きし、さま……?ううう、怖かったデシ……誰もいなくて、大司教サマも…いなくなっちゃって……うわぁぁぁぁん!!」
「よく一人で耐えた、偉かったぞ惹琴……色々聞きたいことはあるが、今は……まあ、黙っていてやる」
安心させるように抱き締めて、複雑そうな面持ちで少年──マネゴト?くんの背をポンポンと撫で叩いている皇導さん……良いとこあるじゃない。
マネゴトくんが落ち着くまで少し時間が掛かり、鼻をズピズピ鳴らしながらようやく会話が出来るようになった頃には良いところを見せた皇導さんの株はまた下がり始めていた。
「それでお前は何故ここにいる?ホテルであの方といる筈ではなかったのか?ん?それに駆魔はどうした?」
「えっと……その…大司教サマに……言いくるめられちゃった……デシ」
「二人揃って?」
「ううう……」
「皇導さん……あの人の言葉には、俺たち……誰も、勝てない」
「……分かってる。だが、こいつは曲がりなりにも我ら教団聖剣士のブレーン担当を名乗っているのだぞ、それがこの体たらくでは……はぁ」
「ごめんなさい……あの…なんで、あの子と……一緒…なんデシ………?」
「……チッ、成り行きだ成り行き。今はその事は関係ないだろう」
明らかに内輪話が聞こえているけど……カルマってなんか聞き覚えがあるのよね。
首を捻って思い出そうとした瞬間に、山頂の方から凄まじい爆発音と緑色の光の柱が見えた……距離は、結構近い。
「何あれ!?」
「あそこが本丸か……行くぞお前たち。貴様も来い、リボンの少女!!」
強引に腕を掴まれて、痛いけどもアタシはその言葉に頷いた。
マネゴトくんの方は神牙さんが抱き抱えて運ぶみたいだ……ちょっとアレは恥ずかしいわね。
無言で歩いてくアタシ達……そこに近づいていくと男性の笑い声と衝突音、そして争うような声がだんだんと大きくなっていくのがとても恐ろしかった。
「──のターン。ドローフェイズをスキップしてカウンターブースト!さあ、おいでなさい【神聖なる使徒ミカエリス】!!」
山頂に着いた瞬間に閃光と共に現れたのは赤みがかった白いローブを纏った長剣を振るう深紅の髪の少女。
その少女が剣を振るうとその軌跡をなぞるように炎が走って辺りを焼き尽くさんばかり燃え盛る。
それにゾッとするような美しい微笑みを浮かべて対峙するのは緑髪に金髪が所々混じったような色合いの髪を結い上げた着物姿の大人の女性……何故か、アタシはその人が翠子さんだと直感で分かった。
『「熱いのう……風情が無い奴じゃ」』
「ふふふ……すいませんね、先ほどから気が昂って仕方ないのですよ」
所々切り裂かれたような傷のついた真っ白なローブに真っ白な仮面……アタシはソレをどこかで見た事がある。けれども思い出せない……もどかしい。
白いローブの男性はこちらに気づいたようでヒラヒラと気安く手を振ってくるのが見た目とのギャップもあって怖い。
「おや、今来たのですか……ふふふ、まあいいですよ。巻き込まれない位置で観戦していて下さい」
「白掟様!しかし……!!」
「逆らうのですか?お前たち如きが……なんて、冗談ですよ笑って下さい」
冗談には全く聞こえない声色だった。
石のように固まっている三人をクスクスと笑いながら怪人は何が楽しいのかくるりとその場で一回転してみせる。
「心配してくれているのでしょう?大丈夫ですよ、とっても私は元気ですからね……ふふふ」
うっそりと仮面越しに笑う怪人……やっぱりアタシは、この人を知っている。




