「油断なんてしてあげないんだから!」
仮面の不審者達に襲われた次の日、アタシ達は照海さんの家で朝ごはんを食べていた。
卵焼きに漬物、そしてお味噌汁。The日本の昔の朝食というラインナップが並べられていて、そのどれもがとても美味しかった。
「ご飯美味しいっぺ〜」
「ガッハッハッ、若い子がいっぱい食べてるん見んのは気分がええ!ほれ、五月雨の嬢ちゃんももっと食いや、ほれほれ」
ひょいひょいとお皿に追加の卵焼きが乗せられてきて、もうおなかいっぱいなアタシは腕と顔を横に振って拒否する。
「もうおなかいっぱいなんです!無理ですって!」
「じゃあわたすが食べるっぺ〜」
パクっと卵焼きを食べて頬を膨らませている翠子さん。美味しそうにいっぱい食べている姿は小動物みたいで和むわ……
「じゃあ、五月雨の嬢ちゃん、米原の嬢ちゃん、支度したら外行くで。アポロ、アンタは坊の様子見とくんやで」
「留守番は任せてくれ姐さん……『予言しよう、暑い時は無理しない方がいいよ』」
無駄にキリッとした表情で親指を立てるアポロ店長……予言って何?
結局昨日は百火はずっと寝たままで起きてこなかった。照海さんによると心配は要らないという事だけど、それでもずっと寝たままなのは不安だわ。
車に乗せられてまたどこかへと移動する私たち。今日からは私と翠子さんの修行らしい。
「米原の嬢ちゃんはちょいと確認したい事有るからウチに付き合ってな、五月雨の嬢ちゃんは、ある相手と"ギアスファイト"して欲しいんや」
「ある相手?」
「あんまり強くは無いんやけどな、五月雨ちゃんはきっとアイツから学べる物があると思うんや……ちぃとばかし個性的やけど悪いやつやないからな」
ハンドルを握る照海さんは『カハハ』と乾いた笑い声を上げている……なんだろう、すごく不安なんですけど。
「よしよし、やっと見つけたで……んじゃ、暑いけど歩こうか」
どこのコインパーキングも満杯で、ようやく見つけたそこに車を止めて徒歩移動になったのだけども……思ったよりも道に人が多くて中々前に進めない……何より、真夏の日差しがアーケード越しとはいえかなり暑い。
「あー……しゃーないとはいえやっぱこの時期は混むなぁ道……はぐれんように気ぃつけてや」
「はーいってダメだっぺ〜押し流されるっぺ〜!!」
「み、翠子さーん!!?」
人混みに流されていく翠子さんに手を伸ばすもアタシも流れに巻き込まれそうになってしまう。アタシの方は照海さんが腕を掴んで引き戻されるけども翠子さんの姿は人混みに埋もれて見えなくなってしまった。
「あかんでこれは……年々人多なるしホンマに嫌になるわ……五月雨の嬢ちゃん、しっかり手握っててや」
「う、うん」
ギュッと手を両手で握り、照海さんが歩いていく後ろをついて行くけどやっぱり前に進めない……四苦八苦しているアタシたちは結局、人混みから弾かれるように横道の一つに逸れてしまう。
もう一度本道に戻ろうとした時に、アタシたちの背後から『"水兎"ちゃーん"照海"さーん』と言う耳馴染みのある呼び声が聞こえる。
振り返れば、はぐれた翠子さんと……見覚えの無いすごく大きな男の人が立っていた。
「はぐれた時はどうしようかと思ったけんど、合流出来て良かったっぺ〜」
「合流出来たのは良いけど誰なのよその人……」
「えっとー……わたすが人混みであんれまぁってなってた時にこの人が助けてくれたんだっペ。もうちょっとで押し潰されてたっぺな」
男の人は小さく会釈をしてくるのでアタシもつい、同じように会釈を返してしまう。
「ほー、優しい兄ちゃんに助けて貰えたんやな、米原の嬢ちゃん。兄ちゃんありがとーな、よー見たらおっとこまえやん」
「……恐縮、です」
見た目と違い、丁寧な対応で少し驚いてしまってちょっと申し訳ないわね……人は見かけによらないって今心から理解したわ。
「兄ちゃん観光か?どっから来たん??」
「えっと……俺は、その「神牙!ここにいたのか」あ……皇導さん」
人混みから今度は見た事のある人が出てくる……確か、ユギトさんといたオウドウって人……だけど、ちょっと自信が無い。
顔をちゃんと覚えていない……
「ジュンお兄さん久しぶりだっぺ〜」
「何故お前たちが神牙といるんだ……?」
驚愕と困惑が混ざった、合わせて疲れたような表情のオウドウさん。
『ほーん』と言いながらしげしげと照海さんはオウドウさんの顔を眺めている……流石に失礼じゃない?
「えらいシュッとした兄ちゃんが来たなぁ今度は」
「しゅ……シュッて何ですか?」
「アレや、顔が整っててあらまあイケメーンみたいな感じや五月雨の嬢ちゃん」
「神牙、貴様なんでこいつらといるんだ?」
照海さんからの解説を聞いている横でジンガ?さんを問い詰めてるオウドウさん。『アレがシュっとした顔っぺか〜』と興味深そうに見ている翠子さんに『あんまり人の顔見るのはマナー良くないわよ』と注意を促す。
首を傾げてオウドウさんに経緯を説明しているジンガさんをしゃがませて何やら耳打ちをしているオウドウさん……流石に内容は分からないけど、聞いているジンガさんの顔が強ばってるのは見える。
「……マジっすか」
「大マジだ、とんでもないミラクル引き当てたな貴様」
「なーなー兄ちゃん達、ウチらも兄ちゃん達もこの人の多さやと暑さもあって熱中症とかになりそうやし涼まへん?知り合いみたいやしさー」
「それ、アタシの修行相手の人待たせませんか……?」
「大丈夫や、アイツ遅刻魔やし」
親指をグッと立てる照海さん。とっても不安だけど暑いのは確かだし……
「俺たちは……「良いだろう、同行させてもらう……神牙も来い」……はい」
「それなら決まりやな!お気にの甘いもん屋あるから全員着いてきてやー」
オウドウさんの顔を伺うようにしていたジンガさんだけどその言葉を聞いて少し安心したようにほんの少しだけ表情を和らげている。
少し歩いて着いたのは京都らしさ満点の少しレトロなお店だ。
「おっちゃん、いつもの!ウチ奢るし嬢ちゃん達好きなん頼み!兄ちゃん達もやでー」
「この季節の果物添えクリームあんみつって美味しそうっぺ〜」
「私は遠慮しておく……甘い物は得意ではないからな」
「このかき氷で……メロンの奴」
「みんな普通に頼んでるし……じゃあアタシブルーハワイのかき氷!!」
優しそうなおじさんが持ってきてくれたのはトレイにのった冷え冷えの甘味たち……そして熱々の湯気が立ち上るお汁粉とみたらし団子。
「ここな、お団子絶品やねん。お汁粉も甘みがサラッとしててなー」
「照海さん、涼むって言ってたのにそれ熱々……」
「お冷が冷たいからええねん!これで体内が整うんや」
「勉強になるっぺ〜」
「なるほど……」
「貴様ら、アレ適当言ってるだけだぞ……私でも分かったぞ、アレ」
オウドウさんの言葉に深々と頷くアタシ……うん、大分照海さん分かってきたわ……ノリで生きてるわね彼女。
しばらく涼んでいたら話題は自然と二人の関係の話になって行く。
「ほーん、つまり神牙くんは皇導くんの職場にインターンで入ってるんやな。偉いなーまだ若いのに……飴ちゃんあげたろ!」
「どうも……ありがとう、ございます」
「私もコイツも……良いところで働かせてもらっているからな」
自慢げにしているとこの人はすごく残念に見えてしまう……顔は整っているのに。
ドヤ顔を晒している皇導さん(字を教えてもらった)を冷めた目で見ているとお店の入口のベルがカランと鳴る。
「あっつぅーい、ほんと暑いよねー年々暑くてやになっちゃ……照海さん?」
「なるほど……アポロの予言は絶好調やな。西岡ぁ!この時間からこの店来たんなら遅刻確定やろがい!!」
「ごめぇぇぇん!!だって暑くてさー!!」
情けない声でペコペコと照海さんに謝っているのは小太りのおじさん……遅刻って言ってる事はこの人とアタシを戦わせたがってるの?
「照海さん照海さん、この人誰っぺ?」
「こいつは西岡 墨州、見ての通り人畜無害なオタクや」
「ねぇ紹介雑くない!!?」
「人畜無害付けてやっとるやろ!感謝せいや!!」
何ともいえない雰囲気になってきたけど……アタシ、このヘタレっぽい人と本当に戦わないといけないの?
「まあ、ちょうどええ。おっちゃんテーブルファイトして良かったよなこの店」
「ええよ、どうせお客さんはここまで足伸ばさへんし……一応人増えたら辞めてな」
「おおきに!良かったな、五月雨の嬢ちゃん。修行、時間よりはよ始められんで」
「……この人、強いんですか?」
「この子かー照海さんが言ってた子って……私は結構やるよー地元じゃあ一番の【武闘戦将】使いって言われてるからね!」
やる気満々にふんふんと鼻を鳴らしている西岡さんにアタシは警戒しつつ、デッキを取り出す。
「地元で一番……だったら、油断なんてしてあげないんだから!」




